東京都立小石川中等教育学校

校長メッセージ

令和4年7月

鳥の言葉の研究者

東京都立小石川中等教育学校
鳥屋尾 史郎

 今年度も私は6年生との面談を行っています。7月1日現在では6年生全体の3分の2ぐらいの生徒との面談が終わっていて、まだこれからの生徒は、1学期期末考査の終了後に実施したいと考えています。6年生からは、「あなたの研究テーマは何ですか」を聞き取っています。この稿をご覧いただいている皆様は、小石川中等教育学校には「小石川フィロソフィー」という特色ある教育活動があり、課題研究、探究型学習を行っていることを、すでにご存知のことと思います。1年生から研究に必要な基礎的な事項を学び始め、5年生で自分が研究するテーマを決め、6年生で論文、作品などにより研究を完成します。生徒一人一人が自分の興味・関心のあるテーマを選択するため、生徒の人数分だけ研究テーマがあります。中には共同研究を行っている生徒もいて、共同研究については、複数生徒が同じテーマで論文をまとめています。

 6年生たちは、面談で私に自分の研究テーマをていねいに話してくれました。高いレベルの研究であればあるほど、私の知識や理解を超えてしまい、研究内容や成果をただ感心するばかりになります。いろんな研究テーマがありましたので、具体的にいくつか紹介しますと、

などです。生徒の中には、研究成果に夢をもって大きなテーマで研究を始めてみたけれども、実験がうまくいかず、研究課程でテーマを絞っていくなど、研究を進めていく上で困っていることについても説明してくれました。6年生の説明を聞きながら、自由な発想で研究できることがどんなに大事なことか、また、発想を発見や成果に結びつけるには、実験や検証、文献を丁寧に読み込むなど、地道な努力とくじけない精神力が必要だと思いました。

 6月末に、スーパーサイエンスハイスクールである小石川の教育活動、課題研究指導の在り方についての会議を開催し、大学の専門の先生方を数名委員として出席していただき、さまざまな専門的な見地からご意見をいただきました。私からは6年生との面談の様子をお伝えし、生徒の具体的な研究テーマについてもお話いたしました。すると後日、会議にご出席いただいていた東京学芸大学名誉教授 山崎 謙介 先生から、メールをいただき、京都大学白眉センター特定助教の鈴木 俊貴先生の研究のご紹介をいただきました。(山崎先生からはそれだけではなく『子どもたちの未来を創ったプログラミング教育 戸塚滝登著 技術評論社』についてもご紹介いただいています。)
 ウェブサイトを検索してみると、京都大学白眉センターの鈴木 俊貴 先生は、シジュウカラ科の鳥類に着目し、敵を見つけた時の警戒の鳴き声や、仲間と鳴き交わす様子により、鳴き声やさえずりは単純な警戒の意味ではなくシジュウカラの「言語」である考え、研究していらっしゃることが分かりました。NHKの番組「ダーウィンが来た」にも出演して、シジュウカラが文法に従って文章をつくっていること、20の単語をもち、175の文章をつくっていることを紹介していらっしゃいました。文章を文法に則ってつくることは、人間以外の生き物では観察されていないことです。また、シジュウカラの「言語」の意味を周囲の動物も理解していて、外敵が現れた時のシジュウカラの鳴き声により、リスなどが逃げ出すことについても観察していらっしゃるということでした。
 動画を通して鈴木先生の説明を聞きながら、日本にはすごい研究をしている若い研究者がいることにあらためて驚きました。それと同時に、動物や鳥類にはまだまだ理解できていない分野、研究が進んでいない分野が多々あり、身近なところに研究テーマが潜んでいるように感じました。また、さまざまな研究を進めていく上で、何を研究対象とし、どんな研究方法で研究を進められたら、仮説を検証することができるのか、どんな実験が有効であるのかなど、研究の設計力の高さが、研究者として成功していく上で、きわめて重要であるように感じました。私が検索できたように鈴木先生の研究内容については、ウェブサイトで簡単に検索することができますし、出演された「ダーウィンが来た」も、動画として視聴することができます。小石川の生徒諸君で生物学に興味がある人はぜひ視聴していただくとよいと思います。

 以前の校長メッセージに「貝から始める探究活動」という題で、都立中高一貫教育校の適性検査Ⅰで、「貝」を題材にした盛口 満氏「自然を楽しむ―見る・描く・伝える(東京大学出版会)」と、「カラス」を題材にした松原 始氏「科学者の目、科学の芽(岩波書店)」が出題されたことを書きました。松原氏の文章では、若い時にカラスに鳴き真似をしたところ、カラスが鳴き返してきたと思われる経験が述べられています。若い時に不思議に感じたことや、もっと知りたいと考えたことが生涯の研究テーマとなって、研究者になる方もきっと大勢いらっしゃることでしょう。6年生の話を聞きながら、小石川では研究テーマを決める際に、同じように子供のときに感じた「不思議」や「もっと知りたい」を研究テーマとする人もいることと思います。研究テーマをどんな方法で実験し検証するかは、研究の設計力がどれだけあるかということです。自由な発想で研究テーマを決めることができる小石川の生徒たちが、次の段階として同じように自由に研究の設計ができるようになることを期待しています。