校章

東京都立小石川中等教育学校

校長メッセージ

令和6年6月

「高校生の海外留学」

東京都立小石川中等教育学校
鳥屋尾 史郎

 インターネットで検索すると、日本の高校生の海外留学者数の推移を知ることができます。それによると、日本の高校生が海外留学に出かけた人数は年によって増減はあるものの、コロナ前はおおむね増え続け、2017年(平成29年)にピークに達し46,869人になりました。
けれども、コロナ禍で大きく落ち込み、2021年(令和3年)には3,118人まで減少し10分の1以下まで落ち込んだことから、コロナ禍がいかに高校生の海外経験を不可能にしたかが分かります。
ピーク時の海外留学者46,869人のうち、3か月未満の留学者数は42,793人(91%)で、高校生の海外留学は短期留学者がほとんどを占めています。ちなみに日本の大学生等(大学生、大学院生、専門学校生、高等専門学校生)で海外留学に出かけた人数は、2018年(平成30年)に115.146人でピークとなり、そのうち3か月未満の留学生は86.917人(76%)でしたので、大学生のほうが長期の海外留学を体験している割合が高かったです。

 高校生の海外留学ではどんなことが得られるのでしょうか。高校留学を経験した人から話を聞くと「日本ではできない経験を通して、広い視野を身に付けられた」「自分とは異なる価値観や考え方、文化に触れることができた」「英語力が身に付くとともに、人とのコミュニケーション力も身に付いた」などといった感想が多く、いろんな力が身に付いたことを聞くことができます。
東京都教育委員会は高校生の海外留学の取り組みとして、「次世代リーダー育成道場」という仕組みを教育施策として展開していて、毎年200名(今年度は150名)の都立高校生をアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドに約1年間留学させています。
そして、その目的として「経済、学術、文化等、様々な分野でグローバル化が進展する現代においては、世界中の人々とコミュニケーションをとることができる能力や柔軟な思考に基づいた新たな価値を創造する能力をもち、その力を生涯にわたり発揮する人材が求められています。
東京都教育委員会が実施している「次世代リーダー育成道場」は、国内事前研修で様々なことを学び、その成果をもって留学にチャレンジする都立高校生等を支援するプログラムです。このプログラムを通して、世界を舞台に活躍する国際感覚豊かでたくましい若者を東京から輩出していくことを目的としています。」と述べています。
 こうしたことから、高校生が海外留学を経験すると、将来グローバルに活躍することにつながるさまざまな力を身に付けることができる、そんなことが想像できます。
 次世代リーダー育成道場による高校生の海外留学は約1年間の留学ですが、先述したように、高校生の海外留学の91%が3か月以下で、次世代リーダー育成道場のように1年間留学するのは極めて少数の高校生です。その理由を考察すると、高校生が海外留学する際に直面する大きな問題点と関係があると考えられます。
 1点目の問題点は、海外留学にかかる費用の問題です。海外留学するためには、当然通学する現地の学校への授業料、ホームステイする際にかかる費用がかかり、さらに生徒本人が現地で使う生活費や教材費なども必要です。
海外諸国の物価や人件費の高騰、円安によってこれまで以上に費用については大きな問題となっています。日本の高校生が海外大学に進学を希望する場合にも、費用の問題が高校生の前に大きく立ちはだかります。海外留学や海外進学を対象とした奨学金の制度も現状として十分であるとは言えません。高校生の子供を海外留学させる場合には、保護者の方は相当の出費を覚悟する必要があります。
 2点目の問題点は、留学からの帰国後の大学進学をどうするかという問題です。海外留学先の現地の学校から、その国の大学にそのまま進学を目指すのはあまり聞くことがなく、帰国して日本の大学進学を目指す生徒が大半です。
高校生が1年間海外留学をした場合、留学期間中本来授業を受ける予定だった日本の学校の授業の内容を、帰国後に完全にフォローすることは難しいと感じています。
海外の高校での経験と獲得した英語力を、推薦型の入学選抜で積極的に評価する大学も増えてはきましたが、十分だとは言えません。
 こうした問題点があるにも関わらず、小石川の後期課程生の生徒たちは1年間の海外留学に出かけ、各学年で7、8人の生徒が海外留学を行います。なぜそれだけ多くの生徒が海外留学に興味、関心をもつのかというと、中学3年生のときに全員で2週間オーストラリア海外語学研修を経験するからだろうと考えています。
 小石川は6年間の一貫教育の中で、2回生徒全員で海外を体験する機会をもちます。1回目が中学3年生の夏にオーストラリアで実施する2週間の海外語学研修で、2回目が5年生(高校2年生)の冬にシンガポールで実施する3日間の海外研修旅行です。
オーストラリアの海外語学研修は南オーストラリア州のアデレードで実施していて、3年生は8校の現地の交流校に分かれ、ホームステイをしながら現地校に通学します。シンガポールでは滞在期間のうちの1日は4校の現地の交流校を訪問し、生徒同士の交流を行います。
小石川が中学生を2週間の海外体験をさせる経緯については、中等教育学校立ち上げの担当校長であった遠藤隆二校長の著作「新しい小石川の風」に詳しく記載されています。その当時、私は小石川とは別の中高一貫教育校の副校長で、できたての中高一貫教育校のごく初歩的な様々な課題の解決に当たっていました。
そんな時期、小石川が前期課程生全員で2週間の海外研修を実施するという衝撃的なニュースが伝わってきて「公立中学校で本当にそんなことができるのか」という感想をもったことを覚えています。当時は、海外修学旅行を実施する私立の学校がいくつか出てきたぐらいで、都立高校でも海外に学年全体で出かける学校はほとんどありませんでした。
遠藤校長は生徒にnativeの英語を早い段階で体験させ、体得させることがきわめて重要であると信念をもって取り組んでいたと著作で述べています。そして、小石川の海外語学研修が皮切りとなり、都立中高一貫教育校は、どの学校も積極的に海外に生徒を送り出すようになりました。小石川はこのことに関しての「ファーストペンギン」であったように思います。

 繰り返しになりますが、現在小石川の後期課程生は各学年7、8名、海外留学に挑戦しています。海外での生活の様子や留学先の学校でどんなことを学んでいるか、いろんな報告を小石川に送信してきてくれるので、ホームページの「留学だより」として掲載しています。
「留学だより」には、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダに留学している生徒の現地での体験、留学を通して考えたことが掲載されていますので、高校生の海外留学に興味がある方はぜひご覧いただきたく思います。

校長メッセージ

令和6年5月「ソメイヨシノの生まれ故郷は小石川のご近所のようです」(828KB)

令和6年4月「漢文を学ぶと物理ができるようになるという仮説」(824KB)

令和6年3月「古墳時代の住居址を発掘する」(913KB)

令和6年2月 「紫のこと」(913KB)

令和6年1月 「私たちは21世紀を“人道支援の世紀”と呼べるようになるか?」(994KB)

令和5年12月 「令和5年度Adv.小石川フィロソフィー発表」(882KB)

令和5年11月 「伊藤長七初代校長先生から引き継いだ小石川の教育」(961KB)

令和5年10月 「行事週間で生徒たちが獲得する力」(884KB)

令和5年9月 「The International Baccalaureate」(864KB)

令和5年8月 「たたらと灰吹」(825KB)

令和5年7月 「小石川の授業でのコンピュータの使い方」(999KB)

令和5年6月 「生成AIとの付き合い方」(963KB)

令和5年5月 「大学入学共通テストの数学の出題から考えたスポーツをめぐるさまざまなこと」(704KB)

令和5年4月 「STEM教育を考える」(742KB)

令和5年3月 「RとMATLAB」(906KB)

令和5年2月 「レンガの話」(679KB)

令和5年1月 「戦争発生を未然防止のする方法を自然科学の研究からアプローチできるか?」(847KB)

令和4年12月 「科学系部活動合同発表会」(1011KB)

令和4年11月 「図書館をめぐる話」(844KB)

令和4年10月 「小石川からはじまるシチズンサイエンス」(891KB)

令和4年9月 「思考と想像のジャンプ力」(763KB)

令和4年7月 「きれいな花を長持ちさせる方法」(759KB)

令和4年7月 「鳥の言葉の研究者」(845KB)

令和4年6月 「才能がある若者のチャンスについて、ピアノ弾きYouTuberから考える」(895KB)

令和4年5月 「3年生の移動教室でおいしい水って何?と考えた」(867KB)

令和4年4月 「大学入学共通テストとデータサイエンスとの関係性」(873KB)

令和4年3月 「藍染めの化学」(735KB)

令和4年3月 「貝からはじめる探究活動」(618KB)

令和4年2月 「数は発明か発見か」(801KB)

令和4年1月 「新しいことに挑戦すること、新しいことを学習する方法」(666KB)

令和3年12月 「自分に都合の悪い現実から目を背けない」(782KB)

令和3年8月 「シェークスピアとニュートン ベストをめぐって」(674KB)

令和3年7月 「オリンピック・パラリンピックから何かを得てほしい」(668KB)

令和3年5月 「進路の手引き」(600KB)

令和3年4月 「火星でヘリコプターを飛ばす」(495KB)