校章

東京都立小石川中等教育学校

校長メッセージ

令和6年7月

「サイエンス・テクノロジーフェスタ2024を開催して」

東京都立小石川中等教育学校
鳥屋尾 史郎

 6月22日(土)に本校を会場として、「サイエンス・テクノロジーフェスタ2024 東京大学メタバース工学部×小石川中等教育学校 at 文京区」を開催いたしました。ご来校いただきました文京区の児童の皆様、保護者の皆様、ありがとうございました。
 小石川中等教育学校で、小学生から中学生、高校生、大学生までが一堂に会して、科学や工学に関する実験や体験、研究発表を共有できたことは、とても意味があることと考えます。
児童、生徒たちは現在通っている学校より上級の学校で、どんな学習や研究が行われているのか、あまり知りません。大人も、教員や研究者でない限り子供の成長に合わせて通学している学校や大学での教育内容をうかがい知るのであり、上級の学校での学習や研究を知る機会はあまりありません。
今回の「サイエンス・テクノロジーフェスタ2024」は、こうした学校間にある垣根を取り払い、児童、生徒が自分の近い将来、理科や技術、科学や工学でどんな学習を行うのか、研究ができるようになるか、見通しをもったり、将来像を描いたりすることができる機会となったのではないかと考えています。

 当日、研究発表の会場として、小石川の校舎の3、4階の教室と実験室を使用しました。
小石川の校舎配置は、光庭(中庭)を中心に回廊になっているので、来場者の方が3、4階を順番にぐるりと一周すれば、一通りの発表を見たり、体験したりできるようにしました。
東京大学メタバース工学部の発表、実験体験を主に3階に配置し、4階に小石川の生徒の発表を配置しました。そして、小石川からは69件の研究発表を行いました。
 小石川の生徒の研究発表をいくつか紹介すると、「金樹の作成手法の改善」「『錬金術師の夢』の教材化に向けた改良」「銅の葉の析出条件」「部分積分を用いた自然対数の底の級数の導出」「アカハライモリの生態、再生能力」「核融合発電の実用化」「球体駆動ロボットの開発」「盲導犬の社会進出」「小型テニスロボットの研究」「中型遠隔操作地上誘導型モデルロケットの研究」「不快音についての研究」「メダカからみる種ごとの行動変化」「ケプラーの第2法則を視覚的に証明する方法」「フィボナッチ数列は音楽においても美しいのか」「単独世帯の高齢者がなぜ多いのか」「人口密度と屋外スポーツ」「正五角形の作図」「効率のいいじゃんけんのしかた」「新しい圧縮アルゴリズムを開発する」「培養肉の好感度モデルの作成」「階段ののぼりやすさ」といった研究主題がありました。

 小石川における生徒の研究や探究活動は、大きく「部活動」として行われているものと、「小石川フィロソフィー」として行われているものがあります。
小石川には6部の理数系部活動があり、それぞれが活発に活動をしています。数学研究会、物理研究会、化学研究会、生物研究会、天文研究会、パソコン研究会です。それぞれが大人数の部員を抱え、部内にいくつかの班があり、高い研究成果を上げたり、科学系のコンテストやコンクールで入賞したりする経験を有します。
例えば100名を超える部員がいる物理研究会には「物理班」「写真班」「鉄道班」「ロボット班」「ロケット班」の班があり、「写真班」は全国高等学校総合文化祭の写真部門に東京都代表に選ばれ、「ロボット班」は全国大会で優勝して世界大会に出場し準優勝した経験があり、「ロケット班」は5月末の全国大会で準優勝するなどの成果を上げています。
化学研究会には、代々受け継がれて研究が進められている金属樹の研究があり、毎年のように日本学生科学賞を受賞し、今年の卒業生はアメリカで開催されたリジェネロン国際科学技術フェアで研究成果を発表して文部科学大臣賞特別賞を受賞しています。
生物研究会ではJapan Science & Engineering Challenge パイロットコーポレーション賞を受賞し、生物オリンピックの出場を果たしています。

 「小石川フィロソフィー」については、これまでもさまざまな場面で学校の最も大きな教育課程の特長として紹介してきました。
小石川独自の教科である「小石川フィロソフィー」は生徒の発達段階に応じて、全ての学年で行われる課題探究活動です。自分で課題を決めて研究を進めるのは、3年生の時と、5、6年生の時で、生徒は全員が「リサーチラーニングルーム」と呼ばれる講座に所属して、講座を担当している先生からの指導を受けながら、研究を進めていきます。
生徒全員が自分のやりたいと考えた研究テーマを選ぶので、学年160名の生徒の160通りの研究テーマがあると言って間違いありません。
 小石川の生徒たちの面白いことは、それぞれ理数系部活動で研究していることと、「小石川フィロソフィー」で研究していることが、必ずしも一致していないということ、さらに、大学進学の際の学部選択とも必ずしも一致していないことが当たり前であることです。
例えば、部活動では物理研究会のロボット班に所属しロボットを動かすコンピュータのプログラムを作成して、ロボットコンテストでメダルを取りながら、「小石川フィロソフィー」では、「地学」のリサーチラーニングルームに所属して、「湧き水」の研究を行い、大学は最難関大学の法学部に進学した生徒が昨年度卒業していきました。
 研究や探究活動を積極的に行うことによる大きな教育的成果として、「小石川教養主義」に基いて、文系、理系の枠組みを超えて全ての教科を学習する小石川の生徒たちが、「小石川フィロソフィー」や理数系部活動での研究を行うことで、教科横断的な「学び」を具体的に実践することになっているということがあります。
何か一つの現象を研究対象とした場合に、中学生、高校生の研究では、現象を様々に分析し、意味づけをしていく過程で、現象に関する一つの教科や科目の知識だけで研究が成立するわけではなく、他の教科、科目で学習して身に付けた知識もフルに活用していくことになっていきます。
また、現象を分析する方法としてコンピュータを使うことも多くあり、4年生のときに学んだ解析ソフトのプログラミングの知識が役に立つこともあります。
研究と探究活動、そして理系文系の枠を超えた学習、プログラミングなどのICTの活用とを同時に実践することで、小石川ではカリキュラムの立体化が進んでいると言っても過言ではありません。

 「サイエンス・テクノロジーフェスタ2024」に先立って、私は6月7日、8日に開催された「東京大学駒場リサーチキャンパス公開2024」に行ってきました。東大のリサーチキャンパスには、生産技術研究所と先端科学技術研究センターがあり、日本の科学と工学の最も先端的な研究が行われている場所です。
入構するとすぐの場所にある生産技術研究所の建物は、小石川の校舎とは比べ物にならないほど規模が大きく、数えきれないほどの研究室があり、それぞれの研究室が公開していて、教授や若い大学生が、自身の研究室の研究内容を来室者にていねいに説明していらっしゃいました。
キャンパスを訪れているのは、専門の研究者と思われる人たちや、中学生、高校生たち、小学生とその保護者の方々などいろいろで、最先端の研究を来室者のレベルに合わせて説明するのも大変だろうと想像しながら、研究室を次々と見学していきました。
また、好奇心に駆られて、その場にいる大学生に質問をすると、私の的はずれな質問にも嫌がらず、ていねいに答えてくれましたが、何となく大学生たちのもつ雰囲気が小石川の生徒と似ていて、きっと小石川の卒業生も進学していったそれぞれの大学で同じように勉強したり、研究していたりするのだろうと想像しました。
後になって思うことは、小石川で開催した「サイエンス・テクノロジーフェスタ2024」のレベルやスケールが進化していくと、「東京大学駒場リサーチキャンパス公開2024」になっていくのだろうと思うとともに、小石川でポスター発表や口頭発表を行っている生徒たちが、進学して高度な研究を大学で進めて発表する機会をもらっても、小石川での6年間の経験があるので、きっと大学でも認められる発表ができるに違いないと確信しました。
 生産技術研究所と先端科学技術研究センターの研究室を巡りながら感じたことのもう1点は、研究が高度であればあるほど、研究対象の範囲が狭くなるということ、そしてきわめて高いレベルで専門化していく研究内容は、研究者同士はおそらく互いの研究内容が理解できないくらいに高度化しているということ、だからこそ小石川の卒業生が研究テーマを大学や大学院で自分で決めて、どの研究室に入るかを考える際に、考える基盤となる知識や教養がいかに重要かということを考えました。
また、研究を進める際のコンピュータの活用、特にこれからは人間の頭脳が及ばない範囲まで研究を広げて検証していくためのAIの活用は不可欠であるように感じました。
 東大リサーチキャンパスで研究されている各分野は、研究の手法を含めてやがて高校や中学校にまで下りてくることになるだろうと想像します。
そうしたときに、小石川のような学校が、最初にその高い研究レベルを高校レベル、中学レベルに落とし込んで、中等教育の学習の質の向上に貢献いていく役割を果たしていくことになると考えます。
また、一方で、高校や中学校で生徒たちが発想したさまざまな問いが、大学や大学院といった専門性の高い場所で研究され、成果を上げていくといったことも起きていくことも考えられます。
 「サイエンス・テクノロジーフェスタ2024」で生徒たちが発表した研究成果の中から、さらに専門的に研究されるようなテーマが生まれ、人類の知、人間全体の進歩につながることを期待してやみません。

校長メッセージ

令和6年6月「高校生の海外留学」(828KB)

令和6年5月「ソメイヨシノの生まれ故郷は小石川のご近所のようです」(828KB)

令和6年4月「漢文を学ぶと物理ができるようになるという仮説」(824KB)

令和6年3月「古墳時代の住居址を発掘する」(913KB)

令和6年2月 「紫のこと」(913KB)

令和6年1月 「私たちは21世紀を“人道支援の世紀”と呼べるようになるか?」(994KB)

令和5年12月 「令和5年度Adv.小石川フィロソフィー発表」(882KB)

令和5年11月 「伊藤長七初代校長先生から引き継いだ小石川の教育」(961KB)

令和5年10月 「行事週間で生徒たちが獲得する力」(884KB)

令和5年9月 「The International Baccalaureate」(864KB)

令和5年8月 「たたらと灰吹」(825KB)

令和5年7月 「小石川の授業でのコンピュータの使い方」(999KB)

令和5年6月 「生成AIとの付き合い方」(963KB)

令和5年5月 「大学入学共通テストの数学の出題から考えたスポーツをめぐるさまざまなこと」(704KB)

令和5年4月 「STEM教育を考える」(742KB)

令和5年3月 「RとMATLAB」(906KB)

令和5年2月 「レンガの話」(679KB)

令和5年1月 「戦争発生を未然防止のする方法を自然科学の研究からアプローチできるか?」(847KB)

令和4年12月 「科学系部活動合同発表会」(1011KB)

令和4年11月 「図書館をめぐる話」(844KB)

令和4年10月 「小石川からはじまるシチズンサイエンス」(891KB)

令和4年9月 「思考と想像のジャンプ力」(763KB)

令和4年7月 「きれいな花を長持ちさせる方法」(759KB)

令和4年7月 「鳥の言葉の研究者」(845KB)

令和4年6月 「才能がある若者のチャンスについて、ピアノ弾きYouTuberから考える」(895KB)

令和4年5月 「3年生の移動教室でおいしい水って何?と考えた」(867KB)

令和4年4月 「大学入学共通テストとデータサイエンスとの関係性」(873KB)

令和4年3月 「藍染めの化学」(735KB)

令和4年3月 「貝からはじめる探究活動」(618KB)

令和4年2月 「数は発明か発見か」(801KB)

令和4年1月 「新しいことに挑戦すること、新しいことを学習する方法」(666KB)

令和3年12月 「自分に都合の悪い現実から目を背けない」(782KB)

令和3年8月 「シェークスピアとニュートン ベストをめぐって」(674KB)

令和3年7月 「オリンピック・パラリンピックから何かを得てほしい」(668KB)

令和3年5月 「進路の手引き」(600KB)

令和3年4月 「火星でヘリコプターを飛ばす」(495KB)