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2025/06/03 校長室だより

校長室だより「温故知新」令和7年6月3日

温故知新

 5月30日(金)、駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場を会場に本校の体育祭が開催されました。熱中症対策のために昨年度から同体育館で開催しており、今年度は雨天にもかかわらず中止することなく実施でき、生徒たちは青春を弾けさせ活躍していました。


 体育祭当日の様子はこちらをご覧ください。(5月30日付の記事)

 全年次をミックスした上で6つの団(青・橙・黄・白・緑・赤)に分かれ、競技だけでなく、応援合戦も大変盛り上がります。当日だけでなく、体育祭に向けての練習や団旗の制作など、様々な方面から体育祭を盛り上げています。
 世田谷総合高校の体育祭では、代々、それぞれの団が漢字4文字の標語をつくっています。故事にならったもの、自ら考えだしたもの様々ですが、各団の色をイメージする文字が入る工夫がされています。

青団団旗

青団「青嵐闘魂」(せいらんとうじ)

 青の海を仲間を想いながら泳ぐ、鯨のようにそれぞれの力を信じながら勝利を勝ち取る

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橙団「橙焔煌々」(とうえんこうこう)

 強力で凄まじい力を持つ狐の妖怪『九尾』をモチーフとし、橙団の栄光を掴むという意味。
 また九尾には争いを収める「平和のシンボル」という意味もあり、体育祭を通して生徒の仲が更に深まって欲しいという意味を込めた。

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黄団「戦雷煌舞」(さんらいこうぶ)

 戦いに挑む雷の如き勢い
 煌めきながら舞う王者の姿

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白団「白虎一閃」(びゃっこいっせん)

 虎視眈々と獲物を狙って、一閃で仕留める。

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緑団「柳暗花明」(りゅうあんかめい)

 全員で明るく楽しく、狙うは優勝、ただ1つ!

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赤団「気炎万丈」(きえんばんじょう)

 燃え上がる炎は赤団の情熱と団結を表し、「気炎万丈」の力強さを象徴。
 その炎で去年の自分たちを超える決意を示している。

 「温故知新」という故事成語があります。書き下し文では「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」と読みます。孔子の「論語」にある言葉で、過去の事実を研究し、そこから新しい知識や見解をひらくこと、という意味です。
 団の標語も、過去の言葉を学び、そこから引用したり、そこから新しく創り出したりしたものです。漢字4文字の言葉は、「古くさい」というイメージがあるかもしれませんが、古いもの(にならったもの)であるからこそ、伝統や風格、堂々としたさまが感じられます。


 現代の社会や科学技術は複雑化しており、それを理解することは容易ではありません。しかし、社会も科学技術も、人間の歴史の中で単純なものから複雑なものに作り上げられたものですから、過去のことを学ぶことで、複雑なものを単純なものに分解して理解することができます。
 たとえば、今この文章を読んでいる皆さんは、コンピュータ(パソコン、スマートフォン、プリンタなど)を介して読んでいます。そのコンピュータがどのようにして動いているかは、小型化し複雑化してしまった今、理解することは難しいように思われます。しかし、実はコンピュータは非常に単純な原理で動いていて、それを数多く組み合わせたものに過ぎないのです。
 たとえば、足し算をするコンピュータを考えてみます。私たち人間は0から9の10種類の数字を使い、9の次(10)になったら位(くらい)が上がる10進数という数を使っています。コンピュータでは、電気を10段階で表すことは困難(境目を明確にすることが難しい)ので、電気が「強い」か「弱い」かの2段階で表し、数字の0を「弱い」、1を「強い」として、0と1の2種類の数字を使い、1の次(2)になったら繰り上がる(「10」と表す。「1」は2の位、「0」は1の位)2進数という数字を使います。電気の「強い」「弱い」をスイッチの「オン」「オフ」で表してもよいでしょう。スイッチオンが1、スイッチオフが0です。
 1桁の数字同士の足し算を考えてみます。2進数で数字は「0」か「1」しかありません。なので、1桁同士の足し算は「0+0」「0+1」「1+0」「1+1」の4通りしかありません。計算結果は、それぞれ「0」「1」「1」「10」になります。このとき、計算結果の1の位に注目すると、「0+0」と「1+1」のときは「0」、「0+1」と「1+0」のときは「1」になります。つまり、足される数と足す数が同じときは「0」、異なるときは「1」になると言い換えることができます。これを電気回路で表してみましょう。
XOR 2つに分かれるスイッチ(三路スイッチ)を2つ使っています。三路スイッチは、階段の上と下で同じ照明を点けたり消したりするときに使うものです。これで足し算の1の位をスイッチで表すことができました。
 同様に、2の位(繰り上がり)を考えてみましょう。繰り上がりが起こるのは「1+1」のときだけなので、両方のスイッチがオンのときだけ全体がオンになる(1になる)ようにすればよいです。
AND スイッチを直列につなげば、両方のスイッチがオンのときだけ全体がオンになるようにできます。
 この2つの回路を使えば、1桁同士の足し算をする電気回路=コンピュータを作ることができます。
XOR_AND 足される数と足す数それぞれ2か所のスイッチを操作しなければなりません。できれば1つずつのスイッチで操作したいです。そこで、リレーという部品を使います。リレーはコイルとスイッチでできていて、コイルに電流が流れるとコイルが電磁石になり、電磁石の力でスイッチを動かします。ここでは、1つのスイッチで2つのリレーを動かしてみます。
半加算器 コンピュータが登場した頃は、このようなリレーをたくさん使って計算する機械=コンピュータが作られていました。
  (日本初の実用リレー式計算機FACOM 100(富士通) (情報処理学会))
 その後、真空管やトランジスタがスイッチの役割を担うようになり、コンピュータの小型化、複雑化が進んでいきました。今のコンピュータはごくごく小さいトランジスタの組み合わせです。しかし、コンピュータがスイッチの組み合わせであることは変わりません。小学校や中学校の理科で学んだ知識でコンピュータを作ることができるのです。

 学校で学ぶことが「役に立たない」と思う人がいるかもしれません。学校で学ぶことはそのままでは使えないかもしれませんが、 古い(故い)もの=基礎的なもの=単純なもの=理解しやすいもの を学ぶことで、複雑で難しいものを分解して理解しやすくしたり、新たな組み合わせで新たなものを生み出したりすることができます。

 ちなみに、コンピュータ computer という言葉は、compute(計算する)+er(~する人)という成り立ちです。今でいうコンピュータ(計算する機械)のことではなく、まさに「計算する人」という意味でした。コンピュータがない頃は人間が計算するしかなく、計算するという職業(計算手)が存在しました。
 たとえば、富士写真フイルム株式会社(現・富士フイルム株式会社)ではレンズの開発を行っていましたが、1940年代、レンズを通る光線を計算するための複雑な計算を計算手が行っていました(簡単な計算ができる「手回し計算機」を使うことはできました)。1000本や2000本という光線の計算をしなければならないのですが、複数人の計算手でとりかかっても1日に10本分くらいしか計算できませんでした。あまりに時間がかかりすぎました。そこで、レンズ開発の責任者だった岡崎文次さんは、真空管を使ったコンピュータ(計算する機械)を自分で作ってしまいました。これが日本初の電子計算機FUJICです。

 故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る、そして新しい組み合わせで新しいものを生み出す。世田谷総合高校の学びから生まれるイノベーションが楽しみです。