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東京都立富士森高等学校

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189本目:吹奏楽部の「化学反応」 ~校長の閖上訪問記録~

2025/08/30

 「化学反応」について 「Wikipedia」で調べてみると、「化学反応とは、ある一連の化学物質が別の化学物質へ化学的に変換する過程である。」とあります。文系の私は「複数のもの(物・者)が合わさった時に、一般的に期待された以上の肯定的な変化をする過程とその様子」という意味合いで使うことがあると感じています。

 さて、今日のタイトルですが、ことのきっかけは先日のオープンキャンパスにあります。オープニングの歓迎演奏のために体育館で待機している吹奏楽部ふじもりメンバーの後ろ姿を見ていて、着ているお揃いのポロシャツのバックプリントが目に入りました。

 250822背中

 バックプリントの赤い文字を見ながら「あぁ、今年も閖上(ゆりあげ)に行く時期が近づいてきたなぁ」と漠然と考えていました。よく見ると下に白い文字で何か書いてあります。近い距離で見るのは初めてでしたが、こう書いてあります。

 「Making other people happy will make me happy」

 英語が得意ではない私にでも、何となく意味が分かります。この言葉は、吹奏楽部員が自分たちを紹介する時にいつも使っている言葉を英訳しているということに気づきました。

 その時に、「あっ、今年こそ閖上に行きたい」と思いました。実は昨年5月の吹奏楽部の定期演奏会で初めて閖上訪問のことを知って以来、ずっと気になっていました。なぜなら他校に類を見ない素晴らしい活動なのではないかと想像できたからです。本当なら昨年のうちに富士森吹奏楽部の様子を見に行きたいと思っていました。しかしどうしても日程が調整できず、学校でのお迎えだけになってしまいました。あの時は台風で高速道路が通行止めになる中、迂回を重ねてやっとの思いで戻ってきた吹奏楽部を出迎えたことを覚えています。そして、一人一人、特に訪問の前後で1年生の表情に変化があることに気づいていました。

 というわけで、今年は何とか都合をつけて吹奏楽部とは別行動で閖上に行くことにしました。

 本当であれば引率に加わって、顧問の先生方の負担を減らすことができたのかも知れません。特に今年の夏の富士森吹奏楽部は総文祭吹奏楽部門の東京代表として高松大会に参加したこともあり、宿泊を伴う活動が3回と例年より多く、熱意を持って取り組んでくれているとはいえ顧問の先生方の実際の負担が大きくなっているであろうことは想像できていましたからね。しかし校長という仕事柄、不測の事態への対応等、不確定要素が多い現実が容易に想像でき、本当にギリギリまで行けるかどうかわからないと覚悟していましたので、引率という仕事にはしないで休暇を取ってプライベートでの行動にしました。そのためこのアイディアは一部の先生にしか相談せずに進めました。

 何とか初日の活動だけなら見に行ける目途が立ったところで、プライベートとはいえせっかく行くことができることになった校長の自分に何かできることはないかと想像しました。

 そこで現地でお世話になる方々にできるだけ会って挨拶することを考えました。

 幸い本隊である吹奏楽部が現地に入るのはお昼過ぎです。そこで一足早く現地に入り、できるだけ多くの方々にお目にかかって、校長としてこれまでの活動への協力に対する謝辞と当日を含めて今後の変わらない連携についてのお願いという「御挨拶」ができないかと考え、3日前と直前にはなりましたが現地の関係各方面にアポイントを取ってみました。プライベートでの訪問であることと趣旨を説明して、当日の午前中でアポイントを取ったところは3ヶ所でした。名取市教育委員会・名取市役所都市開発課・名取市立閖上小中学校です。いずれの場所も快諾していただきました。そこで顧問の先生にも協力していただいて持参する資料として「学校案内」「今年度の定期演奏会プログラム」「昨年度の閖上訪問記録集」を準備しました。

 28日午前中、吹奏楽部がバスに乗って移動している頃、まずは名取市教育委員会・名取市役所の順で訪問しました。

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 名取市教育委員会では直前のアポイントであったにも関わらず教育長との面会も検討していただいたとのことですが、議会対応のため実現しませんでした。スケジュールを検討していただいただけでも恐縮です。また名取市役所では昨年度御対応いただいた方は都市開発課から別部署に異動されていましたが、途中から対応に同席してくださいました。資料を見ながら自分の名前が掲載されていることにとても恐縮されていましたが、それでもとても嬉しそうにしてくださっていました。いずれの場所でも対応していただいた方から、吹奏楽部のこの夏の都大会金賞の話題が出たことには驚きました。

 市の中心部にあたる上記2ヶ所を訪問してから、いよいよ海に近い閖上地区へと向かいます。閖上小中学校に到着して最初の印象は「校舎が新しくてきれいだ」ということでした。しかしそれがなぜかに気づいて、自分の浅はかさに愕然としました。このブログを読んでいる皆さんはなぜ校舎が新しいのか想像できましたか。

 すぐに隣接した場所に碑がありました。その碑には、この地に閖上中学校があったこと、そして14名の中学生が津波で命を落としたという事実が刻まれていました。それほど海から近い印象がありませんでしたが、ここにはこのような現実があります。周囲を見回してみると確かに高い建物は少なく、住宅も含めて新しいものが多いことに気づきました。

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 校長室で峯岸寛仁校長と話をさせていただきました。直前のアポイントだったにもかかわらず、なんとこのブログに目を通していただいたようで、とても恐縮してしまいました。今年度着任とのことでしたが、富士森吹奏楽部との交流の経緯についてはしっかりと引き継いでいただいているようで、記憶に残し、伝えていくことの大切さについてお互いに確認することができました。最後に職員室に立ち寄らせていただき、翌日の児童生徒たちの交流についてよろしくお願いしたいとお伝えしました。

 充実した時間を過ごしましたが、気づくと既に吹奏楽部本隊が最初の見学地である閖上メモリアル公園に到着する12時を過ぎてしまいました。閖上小中学校を後にして現地に向かいました。前述した通り高い建物が少なく、遠くまで見通せる道をいろいろなことを想像しながら進んでいくと、遠くの駐車場にバスが2台止まっているのが見えました。既に吹奏楽部ふじもりメンバーは到着していて、それぞれ分かれて見学をしていました。

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 前述した通りさえぎるものがないからなのか、かなり遠くで私に気づいたふじもりメンバーがいたようで、驚いた表情で近づいてきました。しかしよく気づいたなぁと思っています。遠くからでもわかる「フォルム」ということなのかと想像しました。まぁトレードマークであるよく目立つネックストラップのせいだということにしておきましょう。そこからは本隊に合流して、施設の見学や説明に耳を傾けました。

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 特に名取トレイルセンターの一室をお借りして行われた閖上小中学校初代校長である八森伸先生による講演は貴重な経験でした。

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 次の訪問地から二手に分かれて、バス1台は資料館の見学へ、もう1台は今回の演奏活動の一つである市営住宅閖上中央第一団地での演奏会へと向かいます。二手に分かれるのは会場の広さの都合もあるのだと想像しました。

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 演奏メンバーはてきぱきとトラックから機材を搬出して、6階の集会室でセッティングを始めます。6階からは高い建物がない風景と水平線がよく見えます。一見きれいな景色とも言えますが、やはり複雑な心境になります。住民の方が、遠くには「相馬の発電所」も見えると教えてくださいました。しばらくすると三々五々住民の方々が集まってきます。市営住宅が新しいことと集まってきた住民の方々が御高齢であることに気づきましたので、現地で対応してくださった名取市役所政策企画課の方に尋ねたところ、やはり津波で被災して仮設住宅での生活を余儀なくされた方が優先的に入居できる市営住宅として建設されたものであると説明していただきました。

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 演奏の様子を後ろから見ていましたが、曲が進むにつれて観ている方々がリズムを取り出していることに気づきました。アンコールを含めて全5曲、最後の曲では踊りだす方もいらっしゃいました。演奏終了後、住民の方々との直接交流です。嬉しそうに話す住民の方々と笑顔できちんと目を合わせて話す吹奏楽部ふじもりメンバーの様子を見ていて、双方に対してこの活動ももたらす影響の凄さが想像以上のものであることを実感しました。

 時間ギリギリまで交流をして、楽器を撤収した後に6階を見上げるとベランダから手を振ってくださっている方に気づいた時に、「これからもよろしくお願いします。どうぞお元気で。」と心の中でつぶやきました。

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 次の移動は宿舎に向かうだけです。私もここから別行動にすれば少し早く東京に帰ることもできたのですが、ここはやはり最後にもう一度吹奏楽部ふじもりメンバー全員の顔を見ておきたいと思ったので、バスの後ろを追って、仙台市を挟んで名取市とは反対側に位置する利府町にある宮城県総合運動公園合宿所へと向かいました。別行動のバスも既に到着していたので、宿舎で全員の顔を見てから東京へと戻りました。市営住宅での交流の様子を見たことで、全員で行う閖上小中学校での交流の様子も見たい思いをさらに強くしたので、後ろ髪を引かれるような思いでした。

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 今回はたった一日の滞在でしたが、名刺入れいっぱいに用意してきた名刺を使い切ってしまいました。想像以上に多くの方々に支援していただいていることを実感しました。そしてすべての方々の表情が笑顔で、そして優しいまなざしを吹奏楽部ふじもりメンバーに注いてくださっていることを実感しました。このほかにも吹奏楽部の閖上訪問には東京のロータリークラブをはじめとした多くの方々に関わっていただいていることは知っています。さらには部員の保護者の皆様には経済的な負担も含めてこの夏は多大な御協力をいただいていることも承知しています。私の個人的なアポイントに貴重な時間を割いていただいた方々も含めたすべての皆様に校長として心より感謝申し上げます。ありがとうございます。

 東京に戻りながら、吹奏楽部ふじもりメンバー・市営住宅の住民の方々・この活動を支えてくださっている様々な立場の地域の方々の顔を思い浮かべて、この貴重な出会いが様々な形で「化学反応」を起こしているなぁと気づきました。もちろん想像は大事ですが、やはり実際に行ってこの目で見ることができて、そして気づくことができて良かったと思っています。約840kmという移動距離でしたが、夏休みの最後に私自身にとっても貴重な経験になりました。

 そんなことを考えていて、ふと自分の表情も笑顔(=happy)になっていることに気づきました。ここにもひとつ「化学反応」が起きているようです。

 今回は内容が充実しているので、いつになく長いブログになりました。お読みいただいたふじもりメンバーとふじもりサポーターの皆様、ありがとうございました。

 使用する画像もあえて概要になるようにしています。詳細についてはきっと吹奏楽部が発信すると思いますので、そちらを御覧ください。

 さぁ、夏休みが終わります。月曜日に2学期始業式で元気に会いましょう。

①昨日の朝は少し暑さが緩んでいるような気がしました。おはようカウンターは、27回でした。

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