2021/10/07 TGR光が丘今昔

TGR光が丘今昔19　「軍事極秘　成增飛行場飛行場記録」

軍事極秘　成增飛行場飛行場記録
　　　　　　　　　　　　　　　　昭和二十年三月十日　第四十三飛行場大隊

目次
一．飛行場呼稱及所在地
二．飛行地区ニ関スル事項
三．附属設備ニ関スル事項
四．飛行場附近ノ地形特ニ著名ナル地物
五．天文氣象ノ状況氣象ノ交感，季節ノ影響
六．防空及警備施設ニ関スル事項
七．交通，通信及保安施設ニ関スル事項
八．飛行場ノ秘匿及僞裝ニ関スル事項
九．資材ノ集積及補給ニ関スル事項
十．休宿，給養及衛生ニ関スル事項
十一．利用シ得ベキ所在ノ物資及勞力ニ関スル事項
附　　　　　表　緊急時飛行場補修資材一覧表
附　圖　第　一　成增飛行場飛行地区幅員要圖
附圖第二其ノ一　飛行場附属設備（營内）要圖
附圖第二其ノ二　飛行場附属設備（掩体誘導路）要圖
附　圖　第　三　對空監視位置竝ニ對空射撃陣地要圖
附　圖　第　四　成增飛行場警備用通信網圖
附　圖　第　五　成增飛行場指揮用通信網圖
附　圖　第　六　成增飛行場一般用通信網圖
附　圖　第　七　成增飛行場擴聲器（非常電鈴）配線要圖
附　圖　第　八　成增飛行場通信網要圖
附　圖　第　九　緊急時飛行場補修用資材集積位置要圖
附　圖　第　十　燃料彈藥分散集積状況要圖
補　　　　　修　成増飛行場指揮用通信網要圖

成增飛行場飛行場記録
一．飛行場呼稱及所在地
　　　成增陸軍飛行場
　　　東京都板橋區練馬高松町
二．飛行地区ニ関スル事項
　１．飛行地区ノ幅員附圖第一ノ如シ
　２．飛行地区ノ土質
　　　土壌ハ関東平野ノ大部分ヲ占ムル火山灰土質土壌ニシテ土性ハ塡壌土ナリ乾燥セルトキハ軽クシテ飛散シ易ク且吸水力モ強ク爾後ニ於ケル水分ノ含，有量相當大ナル爲粘質增大ス特ニ雨期竝ニ冬季降霜時期ニ於テ然リトス
三．附属設備ニ関スル事項
　１．附属設備ノ状態附圖第二其ノ一其ノ二ノ如シ
　２．指揮及連絡施設
　　　特甲施設竝ニ電話（作戰用，警備用，一般用）施設ヲ以テ之ニ充ツ
　３．格納庫，倉庫，工場の状態附圖第二ノ如シ
　　　格納庫ハ立川航空廠成增分廠所属ノモノ一ニシテ外ニ有蓋掩体六個ヲ有ス
　４．休宿及給水設備ノ状態附圖第二ノ如シ
　　　（イ）休宿施設ニ関シテハ第十項休宿ニ関スル事項ニ於テ逑ブ
　　　（ロ）給水施設
　　　　　　電動機ニ依リ髙架水槽ニ貯溜シ之ガ圧力ヲ利用シテ埋設鐡管ヲ通ジ各所ニ給水ス
　　　　　　外ニ非常用トシテ普通井戸二十七個ヲ設ケアリ
　　　　　　髙架水槽ニ依ルモノ水質良好ニシテ飲料ニ適スレドモ井戸ニ依ルモノ適サズ一般ニ水量豊富ナリ
四．飛行場附近ノ地形特ニ著名ナル地物
　１．関東平野ノ西部地区ニ位シ東ヨリ東南ニ東京市街ヲ西ニ秩父山系ヲ望ム
　　　飛行場周辺ハ武藏野特有ノ波状地帶ニシテ北側竝ニ南側ハ凹地稱々大ナリ
　　　北方約五〇〇米ニ成增町南東地区ハ約四粁ニシテ大東京都街地区ヲ控ヘ近隣ハ畠地竝ニ点在スル民家及澗葉樹林ニ依リ圍マレアリ．尚北方約六〇〇米ニ東武電鉄南約二粁ニ武藏野鐡道共ニ東西ニ通ジアリ
　　　當飛行場ハ兩鐡道ノ中間ニ位置ス
　　　飛行場西北方約一粁ニ振武台陸軍病院，同三粁ニ陸軍豫科士官斈校位置ス．尚東北方約四粁ニ「荒川」東方ニ向ヒ流レアリ
　２．擴張ノ可否
　　　飛行場南側ニハ冨士街道竝ニ凹地アリ北側ニハ凹地及市街地鐡道等近接シアリテ擴張工事困難ナルモ他地区ニ対スル擴張ハ可能ナリ
　３．障碍物ノ状態
　　　飛行場周辺ニ於ケル樹木伐採シアリテ離著陸飛行ニ支障ナシ夜間航法實施上ノ障碍物
　　　川口送信所無線塔　東京中央放送局無線塔
五．天文氣象ノ状況氣象ノ交感，季節ノ影響
　三國及関東等ノ諸山脈ヲ背ニシ南ニ東京湾ヲ間ニシテ房總岳陵アリ飛行場ハ関東平野ノ南部武藏野岳陵ノ一角ニ在リテ一般ニ髙燥ナリ
　１．冬期（十二月－二月）
　　　北東季節風ハ越後山脈ヲ超ヘ若干弱マルモ二，三日ノ周期ヲ以テ八－一〇程度ノ北風跳梁ス
　　　飛行場ハ建設新シク裸地ニシテ地表乾燥セル爲甚シク砂塵ヲ巻キ上ゲ屢々垂直視程不良ナリ．時トシテ離著陸ニ困難ヲ來スコトナリ
　　　十二，一月ニハ雨雪稀ナルモ二月ニ入リ寒波ノ來襲ニ依ル降雪アリ水平視程ハ極メテ良好ニシテ冨士ヲ望ムコト屢々ナリ
　２．春期（三月－五月）
　　　三月ニ入リ北風稍々衰ヘ初メ四月中旬以降ヨリ風向頻度シ特ニ五月ノ午後ニハ南風ノ頻度大ナリ．降水量ノ增加ニヨリ飛行場ノ砂塵ハ減ズ
　　　移動性髙氣圧附近ニアルトキ及低氣圧日本ニ迫ルトキ足尾山塊南方ニ局地的低氣圧ヲ頻発ス飛行場ハ南風吹走リ視度急激ニ悪化スルモ夜ニ入リ回復ス晩春ヨリ初夏ニカケ濃霧ノ発生盛ナリ
　　　五月ニハ早朝薄暮殆ド霧ノ発生ヲ見ル
　３．夏期（六月－八月）
　　　晝夜ノ別ナク殆ド南風吹走スルモ風力弱ク（強クテ三－四米）爲ニ蒸シ暑キコト甚シク氣温攝氏三四度ヲ突破スルコト度々ナリ
　　　雷雨ヲ齎ヲス事ハ稀ナルモ，遠方（主トシテ東方）ニ雷光ヲ見ルコト多シ．隨ツテ降雨モ少シ
　　　南方ノ積乱雲近ヅキ雷雨トナルコト殆ド無キモ北西方関東山脈方面ニ現レタル積乱雲近ヅキ大雷雨トナルコトアリ．昭和十九年七月二十二日北方ニ眞黒キ積乱雲現ルルヤ忽ニシテ來襲シ風速二十米内外ノ物凄キ降雹トナリ飛行機ニ若干ノ被害ヲ蒙リ建物ノ北側窓硝子ハ殆ンド破壞セリ
　４．秋期（九月－十一月）
　　　風向北寄トナリ風速次第ニ大トナルモ海陸風ノ影響ヲ受ケ午前北風午後南風トナルコト屢ナリ
　　　十一月頃ヨリ殆ンド北風トナリ氣温ノ低下ト共ニ夕刻ヨリ早朝ニカケテ霧ノ発生多ク飛行ニ支障ヲ來スコト多シ
　　　十一月下旬ヨリ降霜徐々ニ大トナリ日ニヨリ著シク多量ノ降霜ヲ見午後ニ至リテ霜解ノ爲地表泥土トナルコト通常ナリ．飛行ニハ大ナル影響ナシ
六．防空及警備施設ニ関スル事項
　１．消極的防空施設
　　　（イ）飛行場附属建築物（本部，兵舎，ピスト，便所等）ハ暗幕竝ニ電燈覆等ニ依リ遮光設備ヲ完備シアリ
　　　（ロ）消火設備トシテ貯水池九個（七一五〇石）消火栓九個設ケアリ
　　　（ハ）人員器材掩護ノタメ有蓋掩壕竝ニ個人用掩体ヲ設ケアリ
　　　（ニ）作戰室ハ「鐡筋コンクリート」建ニ施設シアリ
　２．積極的防空施設
　　　（イ）對空監視施設附圖第三ノ如シ
　　　（ロ）對空射撃陣地施設附圖第三ノ如シ
　３．警備施設
　　　（イ）部隊衞兵所ヲ兵營正門ニ又立川航空廠成增分廠衞兵所ヲ兵營南門ニ設ケアリ
　　　（ロ）警備中隊東側ニ飛行場警備ノ爲監視所ヲ設備シアリ
七．交通，通信及保安施設ニ関スル事項
　１．交通ニ関スル事項
　　　飛行場北側ニ池袋－寄居間ヲ連ナル東武鐡道（東上線）通ジアリ東上線成增驛マデ三粁ナリ．其ノ南側ニ池袋－川越間ヲ連ナル川越街道通ジアリ
　　　飛行場南側約四粁ニ池袋－吾野ニ通ズル武藏野鐡道通ジアリ其ノ石神井驛迄三粁中村橋驛迄四粁ナリ附近ニ冨士街道東西ニ通ジアリ
　　　右ノ外道路ハ殆ド鋪裝シアリテ交通状態極メテ良好ナリ
　２．通信網ノ状態附圖第四第五第六第八ノ如シ
　　　東京都内竝ニ各地ニ通ズル公衆電話（落合長崎三九六一，三九六二）ニ線加入シアリテ通信施設概ネ良好ニ在リ
　３．保安施設
　　　飛行場東方約十六粁板橋憲兵分隊竝ニ板橋警察署東南方六粁ニ練馬警察署アリ
　　　又飛行場隣接町村民ヲ以テ武藏野防諜團ヲ組織シ周辺ノ防諜保安ニ任ジアリ
　　　成增町竝ニ飛行場南方一粁石神井ニ各消防署アリ
八．飛行場ノ秘匿及僞裝ニ関スル事項
　主トシテ上空ニ対シ僞裝秘匿シアリ
　飛行地区ハ僞裝道路竝ニ畠地ニ僞裝．鋪裝滑走路ハ道路竝ニ家屋ノ迷彩ヲ施シアリ
　又掩体ニハ植芝植樹ノ外麥種ノ播種．天蓋ノ構築在地機竝ニ用水池自動車掩体ニハ葦廉ヲ用フル
　等努メテ附近ノ地形地物色彩ニ調和スル如ク僞裝ス
　右ノ外在地機ハ既設道路ヲ利用シ飛行場西方約三粁地域ニ分散秘匿スル如ク工事中ナリ
九．資材ノ集積及補給ニ関スル事項
　１．飛行場補修資材ハ附表ノ如ク集積シアリ
　　　其ノ集積位置附圖第九ノ如シ補給ハ逐次實施中ナリ
　２．燃料彈藥ノ分散集積状況附圖第十ノ如シ
　　　補給ハ発達セル交通網ヲ利用シ圓滑ニ實施セラル
十．休宿，給養及衞生ニ関スル事項
　１．休宿及給養
　　　（イ）兵舎ノ配置状況附圖第二ノ如シ
　　　　　　兵舎ハ新設ニシテ其ノ設備概ネ良好ナルモ現在作戰上ノ要求ニヨリ収容定員約七〇〇名ニ對シ約一三〇〇名ヲ収容シアリ即チ工場倉庫講堂等ニ宿泊セシメアル現況トテ休宿施設トシテ適當ナラザルモノアリ
　　　（ロ）給養施設
　　　　　　定員ニ對シテハ良好ナルモ現給養人員約一三〇〇名ナル爲ニ部炊爨ヲ實施シアル現況トテ狹隘ナリ然レドモ其ノ施設ハ概ネ完備セラレアリ
　　　　　　位置ノ関係上物資ノ取得比較的容易ニシテ給養ハ概ネ良好ナリ
　　　（ハ）被爆対策トシテ飛行場周辺，斈校寺院公共建物等ニ協定分散宿營準備完整シアリ
　２．衞生
　　　（イ）衞戍地衞生ノ概況
　　　　　　板橋町附近ハ傳染病ノ浸淫地ニシテ四時小数ノ急性傳染病其ノ跡ヲ絶タズ．然レドモ飛行場周辺ハ一般ニ廣闊人家ノ密集スルモノナク特記スベキ多発性疾患ヲ認メズ．衞生的環境ハ可ナリ
　　　（ロ）氣象ノ状況
　　　　　　氣象上特ニ衛生的悪環境ヲ認メズ
　　　（ハ）飛行場救護施設ノ状況
　　　　　　繃帶所ヲ医務室ニ設ケ第一救護ノ據点トシ飛行場救護所ヲ飛行場自動車庫内ニ設ケ傷者収容班ノ據点トス．戰斗指揮所繃帶所飛行場救護所間ニ三相一系ノ通信網ヲ架設指揮連絡ニ便ナラシム被爆対策トシテ飛行場外豊溪國民學校ニ豫備繃帶所ヲ設ケアリ
十一．利用シ得ベキ所在ノ物資及勞力ニ関スル事項
　１．工場施設
　　　日興航空工業株式會社（中島飛行機製作所下請工場）
　　　冨士伸銅工作工業株式會社
　　　小田原製紙株式會社
　　　不士超鑛材工業株式會社
　　　等アリ何レモ飛行場北端ヨリ約一粁以内ニ位置シ工員二〇〇名－三〇〇名ヲ使用シアリ宿泊能力ハ合計三〇〇名内外ナリ
　２．動力機関ハ大ナルモノシ
　３．緊急時兵舎充當施設
　　イ．明電舎健民修練所　収容人員　二〇〇名
　　ロ．太平洋中學校　　　同　　　　一〇〇名
　　ハ．豊溪國民學校　　　同　　　　一〇〇名
　　ニ．練馬國民學校　　　同　　　　三〇〇名
　　ホ．官立無線講習所　　同　　　　一五〇名
　　ヘ．北野高等女學校　　同　　　　三五〇名
　　ト．豊島園　　　　　　同　　　　　七〇名
　　チ．其ノ他八寺院　　　同　　　　五三〇名
　　右何レモ飛行場周辺三粁以内ニ位置ス
　４．衞生機関
　　　振武台陸軍病院　飛行場西北約一粁
　　　其ノ他民間衞生機関ニ使用シ得ベキモノナシ
　５．物資
　　　飛行場周辺ノ物資トシテハ野菜（大根，人参類）ノ外見ルベキモノナシ
　　　現地自活農園八五町歩ヲ耕作シ野菜・家畜ノ多量生産ニ努メ以テ自給自足ニ邁進シアリ
　６．勞力
　　　（イ）飛行場周辺官營學校産業諸團体竝ニ町會等極メテ積極的ニ軍ニ協力勞力ノ取得ハ比較的順調ナル状態ニアリ
　　　　　　之等團体ト緊密ニ連繫シ随時所要ノ人員ヲ動員シ得ル如ク計畫シアリ
　　　（ロ）緊急時動員ニ方リテハ左記ノ如ク實施ス
　　　左記
　　　荒川作業隊（緊急時召集防衞部隊）　約九〇〇名
　　　　　　　　　電話ニ依リ連絡ス
　　　武藏野防諜團突擊隊　　　　　　　　　一六八名
　　　　　　　　　防諜團員中ヨリ編成シアリ召集セバ速力ニ参集ス
　　　其ノ他状況ニ依リ附近町會員約一五〇〇名ヲ動員シ得ル如ク準備シアリ

【註】原文は，手書きの縦書きである。一部，誤字・脱字と思われる旧字については，適宜補正したものもある。例えば，“状”は，原文では，“爿へん”となっているなどである。附図は省略した。この成増飛行場記録が残されていたことで、かなり多くのことを解明することができている。