合宿を実施しました。
2024/08/23
合宿を実施しました。
天文班は8月9日(金)から11日(日)にかけて、福島県にて合宿を実施しました。
中学3年生と高校1年生計19名が参加し、部活動指導員と教員計3名が引率しました。生徒たちは合宿前に複数回集まり、合宿当日の天体の見どころをまとめたり、持って行く機材を選定・梱包したりと準備を重ねてきました。普段の夜間観測が1時間半程度で終わってしまうために扱いきれていなかった、自動導入の機材や遠隔撮影の機材を操作する練度を上げるため、屈折望遠鏡2本と反射望遠鏡2本を持っていくことになりました。
今回訪れたのは福島県東白川郡鮫川村の鹿角平(かのつのだいら)天文台です。標高708mの丘の上でどの方角にも開けているため高度の低い天体の観測にも挑戦でき、また周囲に光源がほとんどないため等級の低い星(あまり明るくない星)も観測しやすいロケーションです。天文台にはインストラクターがつき、見たい天体をリクエストすることもできます。
【1日目:8月9日】
合宿所に到着後、日が沈むまでの間にミーティングを行い、担当生徒が9日の見どころを紹介しました。部活動指導員が適宜補足し、観測方針を話し合ったり、疑問点を各々調べたりしました。
(写真:ミーティングの様子)
夕食後は観測機器をバスに積み、鹿角平天文台へ向かいました。観測時に使う銀マットや望遠鏡の鏡筒に埋もれるように乗車する生徒の図は天文班ならではでしょう。
設営し始めたあたりから少しずつ雲が切れ、どんどん見えるようになる星々に生徒は歓喜していました。最も晴れた際には雲量が20%程度にまで下がり、観測としては好条件に恵まれました。
ミーティングで紹介され、実際に観測できたものは以下の通りです。
・ペルセウス座流星群
三大流星群に数えられる有名な流星群です。令和6年に最も活発に流星が見えるタイミング(これを極大といいます)は8月13日ですが、極大の前後でも流星の数は減るものの観測可能です。
数多の流星が飛び出す中心点を放射点といい、この放射点が空に上っている間が流星群を観測できる時間とみなすことができます。この日は一晩中放射点が空にあるので、極大前ですが狙ってみようということになりました。視野を広げるため、銀マットに寝転んで観測します。
設営時から流星が見えたという声が聞こえ、2〜3分に1回は流れている印象でした。放射点から随分離れたところで流れるものもあり、生徒は寝転んだり色々な方角を見やったりしていました。
・夏の大三角、アルビレオ
夏の大三角は前日のなかのZEROプラネタリウムでも取り上げられました。都心の富士高等学校からでも肉眼で観測できますが、はくちょう座のくちばしの位置にあたる3等星アルビレオは難しいことが多いです。今回は肉眼で観測できるか探してみることにしました。
実際に天文台で雲が切れてくると、まずは天の川が見えて興奮した生徒たちでしたが、あまりに星が見えすぎてかえって夏の大三角を探すのに苦労するという課題に直面しました。天文台のインストラクターや部活動指導員の助けを借りながら特定し、無事にアルビレオを肉眼で確認することができました。さらに、この天体は本来は二重星のため、天文台の望遠鏡で倍率を上げて観察しました。黄色と青色の星がそれぞれはっきり見えました。
・M27 亜鈴状星雲
亜鈴状(あれいじょう)星雲はこぎつね座にある大型の惑星状星雲です。惑星状星雲とは、恒星が超新星爆発した後に残ったガスの塊のことです。M27はその形が鉄アレイ(ダンベル)のように見えることから、亜鈴状星雲と呼ばれています。
天文台の望遠鏡はPCと連動しており、特定の天体を指示すると自動で導入することができます。インストラクターにM27を入れてもらい、生徒たちは代わる代わる観測していました。望遠鏡を通してみると夜空にもやがかかったようなエリアがあり、初見では雲と見分けがつかないので、専門知識を持った方々に教えを請う大切さが分かりました。
1日目の観測では時間いっぱいまで夜空を楽しむことができ、生徒の満足度も高かったです。一方で、ほぼ真っ暗な中での備品の確認や撤収作業に時間がかかった点は今後の課題となりました。
翌日の観測で対策を取る予定です。
(写真:観測の様子)
【2日目:8月10日】
天文班は夜に観測活動を行うため、日中は時間にゆとりを持たせています。この日は鹿角平天文台のある、鮫川村の農作物を使った自然体験学習を行いました。
村役場の方々と、調理サポーター合わせて20名ほどが迎えてくださり、うどん流しをするための樋と、鮫川村の野菜を使った付け合せを作りました。
生徒たちは樋や料理作りに一生懸命取り組み、完成した料理を役場の方や調理サポーターたちと楽しんで食べていました。
(写真:自然体験学習の様子)
自然体験学習から帰り、合宿所で2日目のミーティングを行いました。この日は鹿角平天文台での観測と、合宿所に戻ってから駐車場での観測があり、時間帯や観測場所の特徴によって何を狙うかをシミュレーションしました。
ミーティングで紹介された天体の一部をご紹介します。
・ペルセウス座流星群
1日目でも触れられた流星群で、この日は流星をスマートフォンやカメラで撮影することにも成功しました。流星が見え始める発光点から消えていく消失点までしっかり写っています。なお、写真を見ると流星はほぼブレることなく写っていますが、他の星々は手ブレが発生していることが分かります。これは画像がブレるよりも速いスピードで流星が発光・消失していったことを示しています。
(写真:2024年8月10日午後8時ごろ、鹿角平天文台、生徒撮影)
・スピカ食
天体ショーとして日食や月食が有名ですが、太陽や月以外の星でも同様の現象が発生することがあります。今回は、スピカが月に隠されるように見える「スピカ食」が起こりました。
今回の食が起こるのは高度7.3度とかなり低い位置になるため、ビルなどの遮蔽物がある学校では観測が難しく、開けている鹿角平天文台では可能性がある、という条件です。月の影のエリアに午後8時16分に潜入し、同45分に月の輝いているエリアから出現すると計算されていました。
天文台のインストラクターが望遠鏡で月とスピカをモニターに投影してくださいました。食に入る2分前まではスピカがまたたくのが確認できましたが、その後は雲に隠れてしまったため、食のタイミングは見られませんでした。一方、地球からはスピカと月がすぐ近くにあるように見えますが、月が雲で隠れてもスピカは煌々と輝いていることが分かったり、望遠鏡を肉眼で覗く場合とモニターを通して映像で見る場合ではモニター映像の方が鮮明に見えることを学んだり、収穫もございました。
次回のスピカ食は今年の12月25日の予定です。
(写真:2024年8月10日午後8時ごろ、鹿角平天文台、屈折望遠鏡にて生徒撮影 注:望遠鏡では上下左右が反転します)
(写真:天文台の望遠鏡の映像を、上下左右を戻してモニターに投影したもの)
前日の反省を生かし、スムーズに機材チェックと積み込みを終わらせ、今度は合宿所駐車場での観測に移りました。
(写真:駐車場での観測準備の様子)
機材の扱いの練度を上げる目的で、ミーティングでは取り上げていないが初心者でも観測しやすい天体を中心に観測しました。
観測できたものをいくつかご紹介します。
・M45 プレアデス星団(すばる)
おうし座にあるプレアデス星団は、日本ではすばると呼ばれる散開星団です。地球からの距離が最も近いメシエ天体であり、等級1.6ととても明るく、青白い星が多く見えるのが特徴です。
今回は反射望遠鏡で星団を捉え、写真撮影に挑戦しました。反射望遠鏡は、より多くの光を集められる口径の大きい鏡筒を廉価で製造しやすく、比較的口径が小さめの屈折望遠鏡に比べて暗い天体を捉えやすいというメリットがありますが、この長点によって見える星が増え、生徒はファインダー合わせに苦労しました。
観測期限に近づいたところでようやく撮影に入り、プレアデス星団らしい青白い色もはっきり写すことができました。
(写真:2024年8月11日午前1時30分ごろ、福島県東白川郡棚倉町、反射望遠鏡にて生徒撮影)
・M57
こと座にある環状星雲で、恒星が超新星爆発の後ドーナツ状のガスが残っている状態です。ベガのそばで平行四辺形に星が並んでおり、その四辺形の短辺の中点の位置にあるため見つけやすい星雲です。
今回は屈折望遠鏡に天体撮影用のCMOSカメラを取り付けて撮影することに成功しました。これは望遠鏡の接眼レンズにスマホやカメラを取り付けて撮影するのではなく、接眼部にレンズの代わりに直接カメラを取り付け、Wi-Fiで連動するタブレット上のアプリケーションから撮影を指示したり、設定を変えたりする機器です。
部活動指導員のアドバイスを受けながら、生徒たち自らが手動でM57を導入し撮影することができた点は大きな進捗でした。
(画像:2024年8月11日、午前1時ごろ、福島県東白川郡棚倉町、屈折望遠鏡およびCMOSカメラにて生徒撮影、矢印は教員による)
この駐車場での観測は夜も遅いこともあり任意参加としましたが、生徒たちは全員参加し、意欲的に望遠鏡を操作していました。その中で肉眼で観測するだけでなく撮影まで行うことができたのは意義深いです。
(写真:駐車場での観測の様子)
【3日目:8月11日】
合宿最終日です。前日の活動が深夜に及んだため、生徒はとても眠かったようです。
朝はミーティングを行い、この3日間での学びを班ごとにスライドにまとめました。
合宿の学びをまとめたスライドは、文化祭等でご紹介する予定です。
ミーティング後は帰京し、機材を整理しました。合宿などの遠征から帰ってきたときに機材がきちんとそろっているか確認し、適切な保管場所へ戻す作業は観測の手技と同様に大切です。
最後にミーティングを行い、朝のミーティングで完成させたスライドを発表しあい、部活動指導員から発表内容についてアドバイスをいただきました。今回自分たちで撮影した写真が多くありましたが、まずは自らが撮った写真だということをきちんとアピールする必要があります。(正確には、撮影日時、場所、撮影機材を注釈に書く必要があります。)また、接眼レンズ越し撮影した場合は上下左右が反転しているため、撮影した画像をそのまま使うのではなく、上下左右反転させて実際の夜空での配置に戻す加工をした方がよいとのことです。
(写真:ミーティングの様子)
3日間の合宿を通して、生徒は事前学習や練習会の成果を発揮し、富士高等学校の観測条件と鹿角平天文台での観測条件の長短を実感しました。また、観測の手技が向上すると、達成感を得られると同時に次なる課題も見えてきました。今回の合宿での学びを、中1〜2年生など不参加だった部員にも伝え、天文班全体の技術や意欲の向上につなげていってほしいです。