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    • 卒業生による講演会 第6回

      「絆」

      11期CB 渡邉 信義
      (H23.7.19)

       今日は「絆」というテーマで、お話しをさせていただきます。日本の人は今ほど絆という事を実感している時はないと思います。
      「絆」を国語辞典でひいてみると、(1)牛馬等をつなぐ網。(2)人と人とを離れがたくしているもの。(3)断つことが出来ない結びつき。とあります。3月11日のあの大震災から、人は一人では生きて行けず、他の多くの人との係わりの中で生きている事を実感しているのだと思います。

       私は昭和35年、中工をなんとか卒業いたしました。すぐに父が経営する独逸顔料工業株式会社に入社しました。会社は、箔といって、出版物、例えば、文学全集や百科事典等の装丁の図柄や文字等に使う物を造っていました。金箔等がその代表的な物ですが、当社は、顔料で色箔という物を作っていました。その後、昭和50年頃に、研磨テープという物を開発いたしました。研磨テープというは、簡単にいうと、極微細なサンドペーパーと思っていただければいいと思います。用途は当時、始まりだした磁気記録に必要なメディアとヘッドの最終研磨に使われます。ビデオでいえば、ビデオテープの表面やビデオヘッドの表面をミクロンオーダーの表面粗さにするものでしたし、皆さんが今使われるパソコンでも、あの中に「HDD」(ハードディスクドライブ)というお弁当箱の様な物が入っています。その箱の中で重要な部品として、モーター、ヘッド、HD(ハードディスク)という3点があります。ヘッドの研磨でも研磨テープは使われていますが、今ではHDの表面加工では、100%当社の製品が使われている工程があります。私と皆さんの間には、中工の卒業生と現役の学生という関係だけではなく、とても深い係りのある事に気付くと思います。皆さんは私にとって大切なお客様なのです。でも皆さんからすると、当社の技術、製品がないとパソコンが機能しないかも知れません。ただ皆さんはそれを知らないだけです。でも当社の製品もパソコンを買ってくれる皆さんがいないと、宝の持ち腐れになってしまいます。「持ちつ持たれつ」ですね。

       昔、当社の社員と食事をした時にこんな質問をした事があります。「この一回の食事をするのに何人ぐらいの人の世話になっているか?」と。ある人は、指折り数えて「30人ぐらいかな」。ある人はもうちょっと多い「100人ぐらいじゃないか」と。ある人は「もっと多勢なんじゃないか一万人ぐらいだよ」と。本当の所は私にもわかりません。でも私は、一回の食事で百万人の人にお世話になっていると思います。今、ここにサンマの塩焼きが出て来たとします。さあ、この一匹のサンマの塩焼きに何人ぐらいの人が係わっているのでしょう。まず、サンマを運んで来てくれた店員さん、サンマを焼いてくれた料理人、サンマを捕ってくれた漁師さん。そのくらいはすぐに思いあたって、その他の人を入れて30人ぐらいになるでしょう。でもサンマを捕るため為の船はどうなるのでしょう。船を造るには多勢の人が係わっています。船を動かすには、燃料が必要です。原油を採掘し重油とする間にも、それは多勢の人が係わっています。又サンマを捕るには大きな網も必要です。網を造るにも原油からプラスチックにするまでも多勢の人が係わっていると思います。そのプラスチックを糸にし、縒って網とする間にも多勢の人が係わっています。船が港についても、セリをする人や鮮度を保つ為に多量の氷が必要になります。この様な仕事にも多勢の人々が係わります。サンマの他にも塩が必要ですし、添えられる大根おろしも、大根を作る農家の人だけではなく、肥料や運送にたずさわる人々等、それは多勢の人が係わっています。サンマの塩焼き一匹を食べるにも、想像出来ないくらいの人々が係わっているのです。一回の食事で百万の人の世話になっていると思う私の考え方は違っていないのではないでしょうか。

       昔「歯車になるな」と言われた事を思い出します。でも今、私が思っているのは、歯車でない人なんかいないという事です。会社で言えば、社長でも課長でも一つの歯車です。その一つ一つの歯車がきちっとした機能をはたす事によって会社が会社として機能しています。いずれ皆さんは社会人として世に出るわけですが、どうか素晴らしい機能を発揮する歯車になって下さい。その様な人の集まりが「絆」を感じられる素晴らしい社会だと思います。

       




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