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古来より様々な歴史の舞台となり、金山や特別天然記念物トキの生息地として著名な佐渡島を、文理両面の視点から探究する研修を企画し実施した。その報告である。
1.目的
(1)日本で絶滅した動物の再導入を行った佐渡島のトキの導入事業の実際を見聞し、 環境の保全について配慮すべき点を学ぶ。また、本校が長年取り組んでいる天然記念物の鳥カラスバトのおかれている現状と比較し、その保全策を考える上での参考とする。
(2)雪の季節を前に、刈り入れの終わった水田においてトキの餌場である「江」の状況や魚道を訪ね、そこに生息する生物を観察し、その人為的な行為が保全にどのように効果を発揮しているかを考える。
(3)餌場としての水田が、離農によってセイタカアワダチソウが繁茂する状態になっている現状も見学し、日本の農業の今後についても考える。
(4)世界遺産として登録されている佐渡島の金山を見学し、なぜ佐渡島には金山が存在するのかを地球科学的な視点から観察する。
(5)世界遺産の認定に当たり、韓国などから反対運動がおこった理由を学び、金山開発の負の遺産についても考える。
(6)日本を代表する民俗学の父「宮本常一氏」の佐渡島の地域おこしを学ぶ。「おけさ柿」や「佐渡小木民俗博物館」を訪ね、民具から人々の暮らしがどのように成り立たせていたかを考える。
(7)佐渡に流された、順徳天皇、日蓮、世阿弥などがなぜ佐渡島に流されたのか、またその当時の暮らしの様子などを「佐渡歴史伝説館」などで学ぶ。
2.日程および行程
11月22日(土)~24日(月)大宮駅集合・解散 宿泊:佐渡町(22、23日)
11/22(土)大宮駅発15:05→(JRとき325号)→新潟駅着16:42→
(貸し切りバス)→新潟港17:00 (夕食) 同港発19:30→(フェリー)
→両津港着22:00→(貸し切りバス)→ホテル着(万代シルバーホテル)22:30
11/23(日)ホテル発8:30→(貸し切りバス)島内研修 トキの保全の現場
→佐渡博物館→宿舎着(敷島荘)18:00
11/24(月)ホテル発9:00→(貸し切りバス)島内研修 トキのねぐらや水田の見学→佐渡金山、佐渡国小民俗学博物館など→両津港着15:20→同港発15:30
→(高速船)→新潟港着16:37→(バス)→新潟駅着17:10
同駅出発18:18→(とき338号)→大宮駅着19:48 解散20:00
3.宿泊場所
11月22日(土) 湖畔の宿吉田屋 佐渡市両津戎261-1
11月23日(日) 敷島荘 佐渡市稲鯨1354
4.事前研修
参加者向けに事前研修を行った。11月13日(木)に本校日本史担当の梶原崇志氏に
「地理・歴史から見た佐渡島」と題して講演いただいた。佐渡島の面積は、多摩地区から奥多摩町・檜原村を除いたものと等しいことや気候、人口密度、近くの海流などの情報を教えていただいた。また、古代・中世の遠流の地であったことや近世の佐渡金銀山の繁栄、近現代の鉱山の閉山から世界遺産に指定されたことなどの歴史も学ばせていただいた。遠流の地になった理由や世界遺産登録に向けて韓国側から問題提起された背景なども学べた。続いて生物の市石が佐渡島のトキ絶滅の経緯や復活のプロセス、トキが住める環境の創生などの話があり、一方で農業の担い手が減少していく中でトキのすむ環境の悪化の懸念なども学び、物見遊山に終わらない研修旅行が期待される中での本番の実施に向けての準備を行うことができた。
5.参加生徒のレポートから
帰校してから提出してもらった1年女子のレポートを紹介したい。
(1)佐渡のトキ再導入を見て学んだこと
今回の佐渡島での見学を通じて、トキの再導入事業は単に「絶滅した鳥を戻す」だけではなく、環境全体を整え、地域社会と協力しながら育てていく大きな取り組みだと実感した。
まず、トキの森公園ではトキの今までの歴史、人工繁殖のためのケージや飼育環境を見学した。個体ごとに識別できるよう足環がつけられ、行動や給餌状況も細かく記録されていることがわかった。トキはかつて日本の湿地に普通に見られた鳥だったが、農薬の普及や湿地の減少により急激に数が減り、1981年に野生絶滅となった。そのため、中国の個体をもとに人工繁殖を行い、遺伝的多様性を保ちながら野外へ放鳥する努力が重ねられている。
また、飼育員の方が行う給餌や健康チェックの細かさに、鳥の人工繁殖の難しさを感じた。
島という閉鎖環境は外敵管理やモニタリングがしやすい一方、生物的には種の多様性が低くなりやすいという弱点もある。トキでも同じく限られた個体で繁殖を進める難しさがあるため、血統管理や人工授精を含めた工夫が行われているということが分かった。
さらに印象的だったのは、保全には地域の農業が深く関わるという点である。トキが餌を得るには「冬期湛水」や「生きものを育む水田づくり」が重要で、農家が協力して水を張る時期や水路の管理を続けていると聞いた。つまり、生物保全は専門家だけでなく地域全体の理解と参加によって成り立つものであり、その広がりがトキ復活の背景にあると理解できた。しかし、トキのために地域全体で協力しているものの、常に田んぼに水を張っていると、土壌が緩くなってしまうという農家側のデメリットもあることも分かった。
今回の見学を通して、環境管理、遺伝的多様性、地域との協力が欠かせないことを再確認した。特に島の狭い環境はメリットとリスクが同時に存在することを理解し、将来的には佐渡のように島全体で生物を守る仕組みづくりを考える必要があると感じた。

(2)水田や江、魚道の観察について
佐渡島の水田や「江」、魚道を実際に見て、トキの生息を支える環境は非常に細かい人間の管理によって成り立っていることを知った。今回訪れた水田は、すでに刈り取りが終わり、冬に備えて水がうっすら残っていた。生きている小動物の生態は、遠く離れた場所からの観察であり、どのような生物かは確認できなかったが、トキが採餌したり、飛行する姿が観察できた。水田はただの稲作の場ではなく、小さな湿地として多くの生物の生活の場になっていると実感できた。
「江」と呼ばれる水路は、田んぼから川へ水が流れるための水路で、魚や水生生物が行ききできるように工夫されていると学んだ。魚道も、水の段差を小さくし、生物が遡上可能な形になっていることを勉強した。水路の石の並べ方一つで水流や生物の通り道が変化し、それがトキの餌資源にまで影響するという説明は興味深かった。
私は、これらが「人為的に手を加え続けることで自然が守られる」という矛盾のようで実は合理的な仕組みなんだなと感じた。放置すると乾燥が進んだり、外来植物が増えて生物が減少したりするため、適切な管理が必要である。
特に、水田の季節ごとの水管理がトキの餌資源の増減に直結することがわかり、環境保全には「時間の管理」も含まれることを学んだ。ただ保護区を作るだけでなく、人間が自然に働きかけ続けることで生態系が維持されているという視点が今回の最大の発見だった。

バスの中から田んぼにトキ発見 トキテラスから望遠鏡で観察
(3)農業とセイタカアワダチソウなどの課題について
見学では、離農によって管理されなくなった水田や草地がセイタカアワダチソウに覆われている景観も見た。私の家の横にも緑地があり、そこでは黄色い花が一面に広がる様子が見られ、一見すると美しいようにも見えるが、そこには生態学的な問題が隠れている。セイタカアワダチソウは外来植物で、繁殖力が非常に高く、背丈も大きいため、他の植物が光を得られず、多様な生態系を失わせる特徴がある。水辺の環境を好む在来植物が減り、昆虫が減少し、結果的にトキの餌となる生きものも減ってしまう。
離農の背景には、農業の担い手不足、高齢化、採算の悪化などの社会問題があることを学んだ。農家が減ることが生態系にも影響し、生物保全と農業問題が深く結びついていることがよく理解できた。佐渡では、一部の放棄地を地域の協力で草刈りを行ったり、「生きものを育む農法」を支援する政策を活用したりして、トキが採餌しやすい環境を再生していた。
私は、自然保護とは単に「自然を残すこと」ではなく、地域社会の暮らしや経済と一体で考える必要があると実感した。
今回の見学を通して、農業が続くことが生物多様性を守るための条件の一つであること、日本全体で農地が減少する中で「人が手を入れる自然」の価値を見直す必要があると感じた。

水路のそばにセイタカアワダチソウが自生 自宅近くのササとセイタカアワダチソウ

種子は本当に泡立って見える
(4)佐渡島の金山と地形などについて
佐渡金山を訪れて、金や銀などの鉱石がどのようにできるのか、地球という大きな視点に立ち、初めて実感を伴って考えるきっかけができた。事前に調べた内容では、佐渡島が日本海側の火山活動の影響を受けた地域の一部にあり、地下から上昇した熱水が地中の裂け目に金属成分を沈着させ、鉱脈が形成されたということを学んでいた。実際に採掘跡の坑道を歩くと、岩石の層に細長い筋のように伸びる鉱脈の跡を見ることができ、教科書でしか見たことがないリアルな人形が動いていることに少し動揺した。
また、佐渡の地形は急な山や深い谷が多く、これが鉱山の開発に利用されたことも知った。
水を使って金を洗い分けたり、鉱石の搬出に斜面を活用したりと、自然地形と人間の技術が結びついている点も興味深かった。
一方で、金山には環境への負の側面もあり、採掘による土砂崩れや森林伐採、地域の人々の厳しい労働環境などが歴史的な課題として残っている。世界遺産として保存する際には、単に技術の進歩を評価するだけでなく、こうした負の遺産も含めて理解することが求められていることを学んだ。
今回の見学で、島ならではの閉ざされた環境が、地質資料を良好な状態で残し、文化遺産として価値を持つことも感じた。

島内の稜線の様子 2つの尾根と谷地形の平地
(5)佐渡の世界遺産登録に関することについて
佐渡金山は世界遺産登録を目指していたが、その過程で韓国などから反対意見が出てい
たことも学んだ。主な理由としては、過去の労働環境に関する歴史認識の問題が挙げられている。実際に佐渡金山を見学して、狭くいつ死んでもおかしくない環境で、朝鮮の人たちをここで働かせたと思うと、韓国が世界遺産認定に反対する理由も理解できると感じた。
世界遺産は「人類全体の遺産」として評価されるため、過去の負の歴史をどう伝えるかが重要になる。佐渡金山の展示には、鉱夫の暮らし、当時の技術、環境負荷などが示されており、良い面だけでなく課題も含めて学ぶ姿勢が求められていると感じた。
今回の見学を通じて、歴史を学ぶとは出来事を丸ごと肯定・否定するのではなく、複数の背景を理解しながら考えることが重要だと実感した。

道遊坑入口から下方へ降りる 労働している姿が強制なのかが課題
(6)地域おこしなどについて
佐渡小木民族博物館の展示を見学して、民俗学とは単なる古い物の収集ではなく、「人々がどのように自然と関わりながら暮らしてきたか」を読み解く学問だということを実感した。宮本常一氏は、地域の人々の話を丁寧に聞き取り、生活の中にある知恵や工夫を記録したことで知られている。展示されていた農具や漁具は、土地の環境に合わせて形が工夫されており、生業と自然環境が密接につながっていることがよくわかった。
これらの民具は過去の「生活の技術」であると同時に、現代の地域おこしにも役立っていると感じた。実際に特産品や観光素材として活用され、地域経済に貢献している。
特産品と言えば、バスで住宅街を走っていた時に感じたことで、どの家も干し柿をしていたこと。おさけ柿といい、佐渡ブランドの柿がある。このようなことにも活用されているのではないかと感じた。
(7)佐渡の暮らしと歴史について
佐渡歴史伝説館では、順徳上皇、日蓮、世阿弥などがなぜ佐渡に流されたのかを学んだ。順徳上皇は政治的対立、日蓮は宗教的思想、世阿弥は権力争いの結果として島に送られており、流刑は当時の政治の仕組みの一部だったことがわかった。佐渡は本土から離れ、船でしか行き来できないため、流刑地として適していたという地理的背景も理解できた。都から離れていたため、もっとも罪の重い遠流の地として選ばれていた。
展示では、流人たちの暮らしぶりが模型や資料で紹介されていて、過酷な環境の中でも文化や宗教が育まれていた様子が示されていた。特に世阿弥が佐渡で『風姿花伝』の思想を深化させたとされる話は印象的で、流刑が単なる「罰」ではなく、文化の流入を生む側面もあったと感じた。また、佐渡は版画が文化として根付いていると知り、驚きだった。「島」という空間の中でもたくさんの種類の文化や歴史が形成されていて面白かった。
また、島という閉鎖空間では変化がゆっくり進むため、歴史が形として残りやすいことも理解できた。これは生物の閉鎖環境であるトキの生態に役立っている環境だということが分かり、共通点が見つかった。
今回の見学を通して、佐渡島は「自然」「産業」「文化」「歴史」が重なりあう場所であり、それぞれが相互に影響しながら現在の島が形作られていることを実感した。

資料館での実際の千国船と大工道具
4 まとめ
今回、私が佐渡島を訪れた目的は、「本や映像で見てきた自然や文化を、自分の目で確かめたい」という思いがあったからだ。学校で生物や地理を学ぶ中で、トキの保護活動や、金山が栄えた歴史、豊かな海と森の環境について知り、実際に行ってみることで理解が深まるのではないかと思った。特に、トキは教科書で写真を見るだけでは実感がなく、本当にどんな場所で生きているのか、自分の目で見ることを目的にした。
現地では、まず保護センターを訪れてトキの生態を観察した。羽の色や動きは写真で見るよりもずっと迫力があり、施設内の資料の説明から、繁殖がいかに難しく、管理が細かい作業の積み重ねなのかが分かった。トキの羽の色に由来して朱鷺色という色があることも知ることができた。また、周辺の田んぼを見たとき、無農薬で生き物が増えるよう工夫されていることを知り、環境づくりがトキの保護と深くつながっていることを実感した。
さらに、佐渡金山や町並みを歩いて、島の歴史にも触れた。自然だけでなく、人々の暮らしと産業がどう結びついていたのかを学べたことは大きかった。実際にその土地に立つと、教科書を読むだけでは分からない重みを感じられた。実際の場所を見学すると勉強になった面も多かったが、過去の負の歴史が感じられ少し怖いと感じた部分も多かった。
今回の訪問で、自然や文化は「知識として覚えるだけでなく、現場を見ることで理解が深まる」ことを強く感じた。今後は、今回の体験で抱いた疑問や興味をもとに、環境保全についてさらに調べたり、別の地域の観察にも挑戦したいと思った。佐渡島で得られた気づきは、これからの学びにつながる大きな経験になったと思う。
(全体まとめ 市石)