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【3月15日】卒業式 式辞(今日の新宿)

令和三年度
東京都立新宿高等学校 第七十四回卒業式 式辞
 
 
 ただいま、卒業証書を授与した三百十五名の皆さん、卒業おめでとう。心からお祝いを申し上げます。
 卒業式にあって、様々な思いが去来することと思います。しかしながら、まず、思いをはせていただきたいのは、これまで皆さんを見守り、支え、導いてこられた、保護者の方をはじめ多くの方々に対しての感謝の気持ちです。皆さんは、この場にいて、新たな道に踏み出そうとしています。今、この時、多くの方々から受けた温情をわすれてはいけません。
 
 皆さんが本校で学んだ三年間のうちの、二年間は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという未曾有の厄災のなかで、厳しい制約を受けながら過ごされました。入学をした時には全く予期していなかった経験をされたことでしょう。むろん、皆さんだけではなく、日本中の、さらには世界中の皆さんと同年代の生徒や学生が同様の苦しい経験を味わってきたわけです。
 休校期間には、校内に自由に入ることもままならず、学校が再開しても分散登校やオンライン授業となりました。部活動はもとより友人達との日常的な楽しい語らいも対面では自由にできない、まことにつらい日々であったと思います。本校での学びで大きな役割を果たす行事においても中止や開催方法の変更を迫られることがありました。とりわけ、修学旅行が中止になった際には、多くの皆さんがつらく悲しい思いをしたことでしょう。そんな中でも、今年の朝陽祭では学年別の開催など制約の多い中、精一杯の発表をしようとする皆さんの姿に感動しました。本校教職員も、皆さんに新宿高校生として、これまでの皆さんの先輩方が歩んできた道と同じような道をできるだけ歩ませたいと、日々検討し、議論しながら学校を運営してきました。しかし、感染拡大という未知の事態の中で、時にはかなり厳しいお願いをしなければならないこともありました。皆さんは本当によくがんばっていただいてきたと思います。ここにあらためて感謝します。
 私は、本校に赴任して以来、学校に向かう道すがら、緊急事態宣言が発令されていたり、近くの駅などで感染拡大防止のため外出抑制の協力を呼び掛ける放送が流れていたりするなか、楽しげに旅行に向かおうとする大人や、夜の繁華街で騒ぐ大人の姿を見ていました。また、それと同時に、そのような勝手な大人の姿をあえて見ないようにしているかのように、参考書を見つめながら足早に登校する皆さんの姿も見てきました。人生の中で一番青春を謳歌し、最も活動的であるべき時期にある皆さんが、守るべきことを守り、その中で自分が今できることにひたすら取り組もうとする姿にいつも心打たれていました。
 私が、皆さん全員が、まさに指導者たるにふさわしい良心と分別をもっていると感じるゆえんはここにあります。
 他方で、この異常事態の中で、皆さんは、自身がこれから進もうとするそれぞれの分野に関連して、これからの世界の在り方について、いろいろ考えることも多かったのではないかと思います。今回のパンデミックは、この世界には既存の知識や考え方では容易に解決に至らない大きな問題があるということを、人に感じさせ、考えさせるものになりました。現在、世界ではパンデミックだけではなく、様々な価値観が交錯する中、分断が生まれ争いがおきたり、私たちの子孫に大きな負債を負わせかねない地球規模での課題がより顕在化してきたりしています。そして、私たちの考え方や既存の解決方法の延長線上に、これらの問題の解決はないということがより鮮明になってせまってきています。
 このような状況では、皆さん一人一人が、現実を直視し、それをどのように認識し、どのように判断し、そしてどのように行動するかが、極めて重要な意味を持つことになります。
 本校の創設の根本精神である校是は「全員指導者たれ」です。百年前に本校が建てられたときからこの校是のもと多くの先輩が優秀な指導者たるべく社会に向けて巣立っていきました。そして、現に指導者として社会の様々な場面で先頭になって課題を解決してきました。本日卒業を迎えた三百十五名の皆さんが新たにここに加わります。皆さんには、将来の日本や世界の直面する課題に果敢に取り組み、導く指導者たる存在になっていただきたいと心から思っています。そのために、さらに自らを鍛え、磨いていただきたい。
 世に、「大樹深根」という言葉があります。「大樹」は大きな樹木、「深根」は地中深く張る根を意味します。大きな木は、大きく枝を広げ、葉を茂らし、雨になれば、人々をその下に宿らせ、濡れるのを防いでやり、夏の暑さのもとでは強い日差しを遮り、その木のもとに集まる人々を憩わせてくれます。そこに集まる人々を困難から守り、憩わせる、そんな大きな木のように人はありたいということです。しかし、そんな大きな木は地中の人の見えないところに深く大きく強い根を張っています。人にとって、この大きな木の根は、教養といえます。他者から見えないところで、どれだけ深く、学問、幅広い知識、精神の修養などを通して得られる創造的活力や心の豊かさ、物事に対する理解力を深めているか。また、社会生活を営む上で必要な文化に関する広い知識をもっているか。これが人としての根っこの深さになってきます。教養のない人のもとには人は集まりません。どれだけ大きな木であっても、浅く小さな根しかもたない木が容易に倒れてしまうことを誰もが知っているからです。
 皆さんには、深い根をもち、多くの人が集まり頼りにする大きな木のような指導者になってもらいたい。今日、本校を旅立つ皆さんに、私からの最後のお願いになると思います。
 結びに、今日の卒業の日まで、皆さんを支え励ましてこられたご家族やご親族の方々もさぞやお喜びのことと思います。ご列席の保護者の皆様、卒業生の皆さんに代わり心から感謝しお祝いを申し上げたいと思います。また、これまで本校への御理解、御協力、本当にありがとうございました。ご列席の来賓の皆様にも、七十四回生の晴れの門出を見届けていただき、衷心より感謝申し上げます。
 
 卒業生の皆さん、ここにいる誰もが、大家族のように、あなたを応援しています。
 さあ、胸を張り、大きく一歩を踏み出してください。
 
  令和四年三月十五日
  東京都立新宿高等学校長 藪田 憲正
 
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