令和1年7月5日(金) 東工大の先生をおよびして数学に関する模擬講義を実施していただきました。
講師 : 正井 秀俊(マサイ ヒデトシ)先生
東京工業大学 理学院 数学系 助教
講義タイトル「ジャグリングの“かたち”」
講義の内容は、数学、中でもトポロジー(位相幾何学)を基に、ジャグリングや組み紐を例に挙げ、日常生活にある様々なものをわかりやすく考えてみるというものであった。
講義冒頭では、数学は、物事を考える際に、必要のない情報を捨てて抽象化し、それによって見えてくる本質を考える学問であるという事が語られた。また、トポロジーについては、例えば、○・△・□という図形は、形は違うが、切ったりくっつけたりすることなく、形を変えることで3つの図形のいずれにもなり得る。従って、これらは同じものだと考える。つまりトポロジーは柔軟な幾何学であるとの説明があった。
トポロジーについては、さらにいくつかの例をあげて、解説がなされた。0↦1、1↦0、2↦0、8↦2であるとき、10081↦?はどのようになるか?トポロジーで考える時、数字の形が重要で、線で囲まれた部分が何個あるかというところに注目して考え、「10081↦?」の答えは4となる。また、一筆書きができる図形とできない図形の違いについても、点を線で結んだ時に、1点から出る線の本数によって判別が可能で、日常のことに数学を当てはめて考えることができる例である。
講義の後半では、先生がジャグリングを実演してくださり、あまりの上手さに生徒が歓声をあげる場面もあった。ここでは、ジャグリングの玉の描く軌跡を組紐の知識を用いて数学的に記号化し、技の違いを解析していくことができるという説明があった。また、ハンドミキサーの例が引かれ、2つある先端が互いに逆向きに回転している理由を、図形的にとらえ、同じ向きに回転したときと、逆向きに回転したときに粒子の描く図形を考えることで、(組紐の考えの応用)、どちらが効率的にかき混ぜることができるのかを数学的に考察した。
数学以外にも、大学の紹介や、ご自分のこれまでについてのお話しもあり、小学校では、遊ぶことに、中学では、走り高跳びに、高校では、囲碁に、大学では演劇と数学に真剣に向き合ってきたことが語られた。研究者として、数学の問題に向き合う時、行き詰ったら、闇雲に考え続けるのではなく、1度問題から離れて、十分な睡眠をとり、散歩をしたり、入浴してみると、考えが開けてくることもある事、また、数学の問題は、15分考えてもだめなら、すぐ解を見て、次に進めという人もいるけれど、もっとじっくり時間をかけて、とことん考えることも必要なことなどもお話しくださった。今年度の2学年は、文理分けが、2学期になるということもあり、例年、理系進学者のみを対象とするこの講義も、文理を問わず、全員受講の形での実施となったが、先生はその点もよくご配慮くださり、講義の随所に例えを用いて、数学が苦手な者にも、分かり易くお話しくださった。おかげさまで、前期末考査最終日の午後という、疲れもピークに達する状態での開催であったが、生徒は皆、熱心に耳を傾け、楽しんで講義を受けていた。
質疑応答
Q 推薦制度があるそうですが、何人くらい推薦でとるのですか?
A 理学院だけで8人とる予定です。
Q 研究者に向いている人とは、どのような人ですか?
A 一つ事に、じっくりと時間をかけて取り組むことのできる人が向いていると思います。片思いの恋愛をしている人に似ているかもしれません。相手の漏らす言葉一つ一つに細心の注意を払うような点で。
Q トポロジーとの出会いはいつ、どのような形であったのですか?
A 大学で、工学を勉強しているときに出会いました。それで、工学から、数学に専門を変えることにしたのです。そもそも、小学校の数学は素朴で好きでしたが、中高では、数学は嫌いな科目でした。大学で出会いなおした数学は小学校で出会ったものを彷彿とさせたのです。
Q 高校数学を好きになるコツは何ですか?
A たくさんの問題を解くのではなく、問題を絞って、じっくり時間をかけてきちんと理解できるまで解くことです。
Q 大学で工学を勉強して、大学院では数学を学ぼうと決意して、受け入れ先を探していた時、沢山の研究室から断られたという事ですが、不安を感じませんでしたか?
A 見つかるまで探すつもりだったので、不安は感じていませんでした。多くの大学の研究室で断られるという経験を経て、東工大の研究室で指導教官を引き受けてくださる教授との出会いがありました。その先生が一番時間をかけて話を聞いてくださり、そのうえで、「それならやれるでしょう。」とお墨付きをいただきました。
Q ベクトルが解るようになるにはどうしたらいいのでしょう?
A 2次元、3次元のベクトルの理解には、ベクトルを調味料に例えると分かり易いかもしれません。ベクトルの矢印を、砂糖や塩や、醤油と考えて、それがどれくらい甘いのか、辛いのか度合も示すものだと考えると分かり易いかもしれません。
Q ジャグリングとの出会いはどのようなものでしたか?
A 中学で走高跳をやっていて、けがのために止めざるを得なくなったとき、ゲームセンターへ一緒に行こう等、様々な誘いがありました。ジャグリングはその中の一つで、その後、仲間と一緒にサークルを作るまでになりました。
生徒の感想
・東工大というトップレベルの理系大学の先生に、理系学部の概要について、すごく分かり易い例を交えて具体的に教えてもらえて良かった。
・「数学」というよりも、「数楽」というイメージを抱いた。楽しそうです。理学部に興味がわきました。
・数学は難しくて好きではなかったけれど、色々な物の見方ができるのだと分かって好きになれそうな気がしました。
・今回の講義で、数学も文系につながっていると思った。問題集を解くのではなく、自分で問題を見つけるというお話も、これは、文理を問わず必要なことだ。先生は、小学校の頃から、好きなものがあって、極めてきたから今があるとおっしゃっていた。自分も何か見つけたい。
・これまでとは違う視点で図形や文字を見ることで、数学を違ったイメージでとらえることができた。
・初めて大学の講義を受けて、数学が嫌いな私でも分かり易く、楽しく受けられてすごいと思った。
・数学に対する考え方が変わった。これからは、しっかり時間をかけて、自分で解法を探したい。
・大学の先生のお話を聞くほうが、教科書で勉強するより分かり易かった。
・身近なところに数学があることを学びました。数学が身近に感じられて楽しかったです。もっと楽しんで数学を学ぼうと思いました。
・数学というと固く、地味なイメージがあったが、トポロジーと言う、非常に自由な考え方の存在を知ることができて良かった。
・普段やっている数学よりトポロジーは面白いと思う。違う視点で物をとらえることの面白さをすごく感じた。正井先生に数学を教えてもらえたら楽しそうだなと思った。