平成28年度 高大連携模擬講義
日時・会場 平成28年7月7日(木) 13時15分~14時45分 3階視聴覚室
対象・参加者数 2,3学年理系進学志望者 200名
講師 東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 主任教授 竹内 徹 先生
演題 「建築構造デザインの世界」
昨年度までは、早稲田の理工学部より、講師を招いて実施してきた高大連携模擬講義であるが、今年度は、早稲田大学の学内行事の事情で、講師招へいが困難となった。しかし、縁あって、日本の理系大学でもトップに位置する東京工業大学から、講師派遣が受けられることになり、しかも、今年度の2学年が第1希望とする、建築学系から、この学系を統括する立場にある主任教授の竹内徹先生に来ていただけることとなったのである。竹内先生は、新宿高校の同窓生(1978年卒、30回生)で、そうしたご縁もあって、可能となった今回の講演会であった。本当に、優れたOBに恵まれた学校である。
当日の講演は、映像を駆使し、先生の作品を含め多くの建物を具体例に引きながら、生徒に質問を投げかけて進められ、大変分かりやすいものであった。
建築学とはどのような学問なのか、実際の建築の現場とは、東工大ではその建築をどのように教えているのか、また、そうした進路を目指す者が、今、高校でどのような備えをするべきかという順に講演は進んだ。
講演の冒頭では、東京オリンピックの会場となるはずであった国立競技場の、今は亡きザハ氏による最初のデザインが紹介された。建築家の職能は本来、建築デザインとエンジニアリングを統合することであるが、ザハ氏を含め、近年の海外の建築デザイナーは主に建造物のデザインのみを手掛けており、構造や材料は別の専門教育を受けたエンジニアにより担当されることが多いこと、対して、日本の建築家は建物のデザインから、構造、材料を含めて全てを横断した教育を受けているという違いが言及された。このため、提案された案では大規模な建物を支える梁に多くの鉄が必要となり、その重い梁を支えるためには堅固な基礎が必要であることが判明して、予算が膨らんだことが採用取り消しの一因となったとの経緯説明が行われた。お話の中で生徒に対して、「梁の太さは?」「梁の材料となるものは?」という問掛けがおこなわれ、それに元気よく、大きな声で答える女子生徒がいて、その質疑の掛け合いが一気に講師と聴衆の距離を縮めた。
その後、先生により構造設計が行われた(1)東工大の新図書館、(2)耐震強化の行われた東工大キャンパスにある緑ヶ丘1号館(先生の教室もここに入っている)、(3)香港にそびえたつ地上350mの超高層ビル中環中心オフィスビルディングを例に引いてお話が進んだ。
(1)の事例では、建物の建築は、デザイン、構造、材料、環境、設備それぞれの担当者のチームワークで行われること、チームワークにおいてはコミュニケーションが大切なこと、構造設計には正確な解析計算が必要で、完成した設計案は実物の50分の一の発泡スチロールを使っての模型を作り、更に強度実験等を経て初めてゴーサインが出ることなどが紹介された。
(2)の事例では、1971年の建築基準法改定以前の建物は柱の鉄筋の数が少ない等、耐震性が低く、1966年に設計された校舎棟は耐震補強の必要があったが、単に古い建物の強度を補強するだけでなく、日本の伝統的な建築物で使われている縁側、庇や簾をヒントに、夏冬の日差しを上手に利用するなどして省エネにも配慮し、かつ、美観を向上させるデザインを工夫し、耐震補強を行ったことが説明された。
(3)の事例では、海外では構造に対する配慮ばかりでなく、その土地に根付く文化が建物にも大きく影響を与えること、例として、香港では風水が重んじられ、大型台風への備えの構造に破産を意味する×型フレームの使用はご法度であったこと、また、数字としては末広がりを意味する八が好まれ、実際、このビルの平面形状に八角形が採用されていることなど、興味深く伺った。
東工大の建築学科では、1学年次には、一般教養、2学年次には設計、3学年次にはフィールドワークで優れた建造物に多く触れる、4学年次には作品制作を行い、制作した作品は大林組、清水建設、竹中工務店など日本で有数の建設会社で実際にプロとして活躍する先輩方に見ていただき評価していただけるとのことであった。
また、高校時代には、建築家として必要な、数学、物理、化学はもちろん、日本史や世界史といった一見かかわりのなさそうな科目も建築の設計をするうえでは大きな意味を持ちうることもあるので、きちんと身に着けること、これからの活躍には英語が絶対に必要なこと、論理的に話をしたり、文章を書くためには国語力も大切にしなければならないことを強調された。
講演後には、多くの生徒から多方面にわたる質問が出されたが、先生は一つ一つに対して丁寧に、奥深い知見をもとに答えてくださった。生徒の感想を読むと、「建築というものがどういうものであるかよくわかった。」「建築をやってみたいと思った。」等の意見が多数寄せられ、将来、本校から東工大の建築学系への進学希望者が増えることが期待される。
参加生徒の感想
参加した多くの生徒から「大変面白い講義であった」、「建築は高校で学ぶすべての教科が必要で、今の勉強がいかに大切か考えさせられた」、「東工大のオープンキャンパスに参加して、図書館や緑ヶ丘1号館を実際に見学したい」という声が寄せられた。
さらにいくつかの声を紹介したい。
・昨年、清水建設の研究所等に見学に行ったとき、免震、耐震について学んだが、先生の話はそれとリンクして興味深く聞くことができた。
・これまで近代建築で意匠が凝らされた建築物を見る時、その意匠の部分にしか目が行かなかったが、これからは、構造にも注意を払ってゆきたい。
・東工大の図書館は、V字とY字の柱で、構造を支えているというお話に驚き感動した。
・構造計算に、僕たちが不得意とするベクトルが使われていると知って、これまでは使うことがないからよいと思っていた分野も、不得意を克服してしっかり勉強しなければいけないと思った。
・付属図書館については以前に本で見たことがあり、その時は「ちゃんと安定しているのかな」と思ったけれど、今日の講義で納得できた。
・地震に対する耐久テストの実験動画を見て、建築物は緻密なものでなければならないことが分かった。
・建築は奥が深い。今の全ての学習が将来につながっている。もう少し中身のある高校生活を送らなくてはいけないと思った。
・幼い頃から建築に興味があったけれど、この講義を聞いてますます関心を持った。東工大に行きたい。
平成28年度高大連携事業 「大学分野別模擬講義」
「大学より講師を招き、生徒が現時点で興味・関心を持つ専門分野の講義を受講することを通して、各々の進路に対する意識を高める」という趣旨で、2学年全生徒を対象に後期中間第一考査最終日、10月28日(金)に、13:05から14:25にかけて大学分野別模擬講義を実施しました。
ご参加いただいた大学、学部、講師、演題、並びに受講者の感想を以下に紹介します。
(講義番号順に記載)
1.早稲田大学(法学)土田 和博教授
演題:インターネット取引と独占禁止法
・コールマン事件など実際の事件が取り上げられ現実的な講義だった。大手通販サイト運営会社のMFN条項の行方が気になる。
・大手通販サイト運営会社らが、自社に在庫を抱えるのではなく、あくまで場貸しであるという事、ある大手通販サイト運営会社が自社のサイトが一番安くなるよう動いていたと聞きびっくりした。
2.慶応義塾大学(経済学)藤田 康範教授
演題:「自我昨古」の経済学―イノベーション・感動の設計・戦略の経済分析に向けて
・経済学は選択の科学だ。数学から色々なことを考えたり、感動や人を驚かせるための計算は面白いと思う。
・経済は数学と考えていたが、難しい数学を用いて理論を色々考えるというよりは、「シンプルに考える」がコンセプト。
3.東京外国語大学(国際関係・国際文化)島田 志津夫特任講師
演題:中央アジアの歴史と文化:現代中央アジア情勢を理解するために
・現在の世界の国々を知るには、その国の歴史、背景を知っておくべき。世界史の授業も役に立つ。今日実施された世界史のテストに出題されたことがたくさん出てきた。改めて、授業を大切にしたいと思った。
・アフガニスタンは中央アジアの一国に過ぎない。他にも~スタンという国名で平和な国はたくさんある。
4.上智大学(文学・独文学)北島 玲子教授
演題:移動する作家たち ~ドイツ文学の場合~
・作品の研究ではなくて、作品が生まれた背景(歴史、作家の人生)についての話だった。作家の人生を知ってその人の考え方を知るというのは、作品を読むというのとはまた違って、面白いと思った。
・大学で修める学問が将来と直結しているとは限らないという事を知った。その点も踏まえて学部を選びたい。
5.東京学芸大学(教育学)倉持 伸江准教授
演題:私たちはなぜ学ぶのか。 学びをどう支えるか。
・人に学びを教える人は、自分が学ぶことを続けている人。教育は学校だけではなく、地域との連携で行うもの。
・これまでは、教師になりたいから教育学部に行こうと思っていたが、これからは、教育学部で何を学びたいかしっかり考えていきたい。
6.東北大学(情報工学)乾 健太郎教授
演題:言葉がわかる人工知能をつくる~自然言語処理の挑戦~
・数学と言葉には深い関わりがあったこと。人工知能に言語を学ばせるに当たり、ベクトルが使われているという事を学んだ。
・ある大手自動車会社やメディアが人工知能の導入に積極的でこれからは人工知能の需要がますます増えていくという。
7.東京大学(生物学)正木 晴彦教授
演題:生物の多様性を微生物から見直してみよう
・教科書の記述とまるで違う生物界のとらえ方が面白かった。より広い視野で学習を進めたい。
・微生物が意外に面白い。地球上の光合成の半分は微生物が行っている。バクテリアは性質が全く違っても、形が同じものがある等を学んだ。
8.東京理科大学(化学)田所 誠教授
演題:超分子的発想の化学 ~役に立たない科学のすすめ~
・今は役に立たなくとも、将来役に立つという可能性を信じて研究を続けていくことが大切。ミクロの世界で化学をとらえることは、これからの科学に貢献する可能性あり。
・世の中には数えきれないほどの物質があり、その多様性に驚いた。すべての実験に目的があるわけではなく、実験の過程で目的が見つかることがある。
9.東京工業大学(化学)中村 浩之教授
演題:化学でがん根治に挑む
・理工学部は機械や技術だけでなく、生命にも関わりがあるという事、人命を救うのに、医学ばかりでなく、薬学や理工学も貢献しているという事を学んだ。
・思いのほか化学を身近に感じた。癌細胞を生で見たい。薬物耐性についてもっと知りたいと思った。
10.東京薬科大学(薬学)畝崎 榮教授
演題:くすりとは。薬剤師とは。
・薬剤師の仕事は薬の処方だけではない。時に危険をはらむ薬剤をしっかり把握し、ミスの有無を厳しく見極めるチェック機能も果たさなければならない。
・大学での6年間のイメージがつかめた。薬剤師は、専門の薬学分野にだけ精通するのでなく医療人としての資質も磨かなければならない。
11.千葉大学(看護学)今村 恵美子講師
演題:スピリチュアルケア・ヘルスプロモーション
・高齢者看護・介護にはスピリチュアリティー(心を支え、苦痛や不安、ストレスを緩和する方向の意識、姿勢)を大切にしなければならないことを知った。
・看護師の仕事は患者の病状を看るだけではない。患者の身体面、精神面、人間関係面、ポジティヴな姿勢を支えられるという存在となるべきで、そういうことができる自分づくりに努めたい。
講義当日は、東北は仙台から来校して下さる先生、集合2時間前(11時半頃)にいらして、印刷や機材の設置点検をなさる先生、授業の合間を縫って、ご参加くださる先生と、講師の先生方は、それぞれ無理を押して、本校生徒のためにご講演くださいました。心より感謝申しあげます。